もっぱら観光目的で山寺を詣でるならば、およそハイライトは奥之院にあるのでなくして、これから触れる開山堂・五大堂のあたりこそということになりましょうか。まずは開山堂です。
(開山堂は)立石寺を開いた慈覚大師の御堂で、大師の木造の尊像が安置されており、山内の僧侶が朝夕、食飯(じきはん)と香を供えてお勤めをしている。江戸時代末期の再建である。向かって左、岩の上の赤い小さな堂は、写経を納める納経堂で、山内で最も古い建物である。
納経堂の方には、先にふれました石墨草筆、一字三礼の写経修行による写経が納められるわけで、観光客が写経体験で書くのとはちと重みが違うような。なんとなれば、納経堂が立つ岩は百丈岩と呼ばれる大きなものなのですなあ。ちと回り込むとこんな具合ですが、もっと下の方まで続いているのでして。
この百丈岩(のどこかしら)には入定窟といわれる慈覚大師の遺骸を納めたところがあるそうな。延暦寺で亡くなった慈覚大師をこちらに改葬したとも伝わるようで、学術調査の結果として、それらしい?遺物が発見されたということでありますよ。とまあ、そんな開山堂・納経堂の右手の細道から五大堂へと向かいます。
五大堂は「五大明王を祀って天下泰平を祈る道場で、山寺随一の展望台でもある」ということですので、訪れる人皆、この石段を登っていくわけですな。皆さん、果たしてどんな感想を抱いておりましょうや…。
「山寺随一の展望台でもある」と言われれば期待度は大いに高まるところで、絶景が待ち構えているやに思うものの、決して否定的な意味合いではありませんが、個人的には「のどかな眺めだなあ」という印象でありましたよ。
♪山の麓 煙はいて列車が走る 凩が雑木林を転げ落ちてくる
銀色の毛布つけた 田圃にぽつり 置き去られて雪をかぶった 案山子がひとり
ふと思い浮かんだのはさだまさし『案山子』の一節。雪景色の季節ではありませんけれど、ここに仙山線がまかり間違ってSLででも通りかかれば…なんつうふうに想像してしまったり。そんなまったり気分にもなる五大堂ですが、まあ、ここに限ったことではないものの、来た証を残したくなってしまう人がいるのでしょうかね…。
いやはや…と首を振りつつ五大堂を後にして、いよいよ本格的下りにかかるのでありました。