何につけ、既製品に頼ることなく「自分で作ってみるか…」という、DIY的な思い付きは多々あれど、なかなか手始めであれこれ思い悩んでしまい…ということがありますなあ。ではありますが、近所の図書館で手に取った『自由の丘に、小屋をつくる』なる一冊には大いに背中を押される気がしてものでして。
いわゆるDIYには無縁で過ごして来られた方が子どもを持った時、自然に囲まれた場所に、それこそハイジの小屋(アルムおんじの小屋か)のようなものがあったなら、子どもにとっても親にとっても楽しいだろうなあと、ふと思い立つのですね。では、セカンドハウスを買うのか…と言えば、予算の関係もこれあり、自分で小屋を建てるということを、ふと、まったくもってふと思い立つという。本格的な家というのでないのが救いですし、ご当人も本格的でないことに油断があったものと思います。
さりながら、この方の用意周到なところはまずDIYでも小物の棚やら椅子やら作る教室に通うことから始める。要するに自分は工具の種類も使い方も知らないではないかと。実際に何かを作ろうと思った際に、あれこれ思いまどうのもこの入口のあたりですけれど、自分なりにしっかり入口を見出してすぐさま扉を開けるところが実に行動力に溢れておると思ったものでありますよ。
やがて小物製作にはある程度の自信を得て、いよいよ小屋づくりという段階に。土地選びはもちろん、小屋の図面引き、材料の調達、そして実際に建てる作業に至るまで初めてのこと尽くしながら、行動力に溢れた方にはかなりうまい具合にノウハウを持った人物たちが加勢してくれるのですなあ。それでも、あらゆる局面で苦労の連続となるのは推して知るべしですが。
で、話としては小屋の製作過程が描かれていくわけですけれど、ある種、小屋づくりを通じて親と子どもの成長物語(もちろんノンフィクションで)という形でもあって、むしろそれをこそ読むべきとも思うところです。何しろ小屋をつくると言った場合、世の中にはすいすいと作り上げてしまう人たちが数多いるわけで、そういう人たちが小屋の建て方を詳細に解説した動画をUPしたりもしているのが、今現在でもあろうかと。それに倣えば、もとよりご当人の手先の器用さとも関わるとはいえ、小屋は完成に至ることにもなりましょう。
ですので、本書を小屋づくりのためのマニュアル本と思っては、詳細な写真や図版が多々掲載されているわけではありませんから、作業をする上で動画に敵うところは全く無いと言っていい。ただここで、ただでさえ本離れと言われるご時勢にあって、要は動画に頼っておればいいのか…てなふうな気持ちも湧きおこるのですなあ。敢えて書籍を出版する意味って…みたいなふうにも。
すでに本書の存在意義は触れてしまっていますけれど、小屋づくりを通じた親子物語ドキュメンタリーなわけですね。そうであっても、ドキュメンタリーの映像で見せることも不可能ではないのがこのご時勢ですけれど、目で見て分かりやすい映像、画像ではない余白といいますか、そういったものがあるのが書籍、文章に分のあるところでもあるような気がしたのでありますよ。
ただただ、思い立って小屋を建てるというプロセスが綴られているのでない。小屋が立ち上がっていくにはさまざま紆余曲折があるわけですけれど、それと同時並行で子ども紆余曲折を経て育っていき、それを目の当たりにして親も紆余曲折を経て育っていくというか、あれこれ考えていく。そのあたりが読みどころなのでありましょう。
冒頭にDIY的なるところへ背中を押される感じがしたといって、やおら小屋づくりを始めるわけでもありませんし、背中を押されたというほどにすぐさま小物をつくり始めるというわけでもないにしても、「本を読む」というか、「本で読む」というのか、そこにまだまだ意味があるように気にさせてもらった一冊でありましたよ。