オーケストラ演奏会@東京芸術劇場を聴きに出かけたついでにふらりと立ち寄った池袋西武で、エスカレータ脇に貼りだされていた催事案内を見て、「ほお、どんな内容であるか…?」と足を向けたのが「ジャパンクリエイティブ OUR BAMBOO Exploring Materials」というイベントでありました。
そもそも「ジャパンクリエイティブ」とは?ですけれど、「1980年代に西武百貨店(現:そごう・西武)で行われていた文化事業を新たな理念で再始動するかたちで2011年に設立され」た一般社団法人であるとか。そうですなあ、80年代の西武百貨店は勢いがありましたなあ。文化発信してましたよねえ。それが昨今では凋落し、低迷し…。直近のニュースは(今でもやるとこ、あるんだと思われた)ストライキの話だったりもして。ともあれ、かつて勢いのあった西武の思いを引き継いだ?団体のイベントを覗いてみたのでありますよ。
今年2023年4月に「ミラノデザインウィーク」で行われた展示の巡回展ということでして、コンセプトは「日本人の生活に根差した竹の活用の変遷、竹と向き合う人たちの仕事と技術、国内外のデザイナーによる新しい発想を通して、竹が秘める潜在力を伝え」ようというもの。フライヤーには、竹という素材に関してこんな紹介がなされておりましたよ。
わたしたち日本人にとって、竹は最も馴染みある天然素材です。古来より日本人は、成長が著しく早く、しなやかさと丈夫さを兼ね備える竹を、生活用品や道具、建材、楽器などの材料として広く活用してきました。近隣国からの竹材や竹製品の輸入の増加、人工素材の浸透により、竹産業が衰退して久しいけれど、昨今の環境問題を踏まえても、竹は着目すべき素材です。
確かに、かつては竹製品はかなり身近なところにあったように思い出され、それが竹ではない素材のものに置き換わっておるなあとは、展示を見て改めて思うところでありますね。物差しやひしゃく、ざるなどなど。おろし金はおろし「金」というだけあって昭和の中頃には金属製になっていて、今はプラ製がもっぱらでしょうけれど、竹製もあったのですなあ。
ともあれ、こうしてさまざまに竹が加工されたのは、上の紹介にもありますとおり「しなやかさと丈夫さ」を兼ね備えているからでしょうけれど、如何せん製作は人の手で行われていたでしょうから、機械加工のできる金属やプラスチックがどんどん代替していったわけで。なにしろ、人件費がかさまずに大量生産できるとなれば、安価な商品として提供できるのですから、世は安きに流れていったということになりましょうね。
竹製品の需要が減るに従い、当然にして竹産業に関わる人も少なくなる。成長が早いのがとりえである竹が伐採されず、竹林が放置されることによって「竹害」などと呼ばれる状況を生じたりもしているようですなあ。
このことは里山の保全全体の問題の「部分」となっているのでありましょうね。解説パネルに「放置竹林が野生動物の住処になる」とありますですが、野生動物が本来の住まいとする山ともっぱら人が住まう人里との緩衝地帯となる里山の存在が失われ、野生動物と人とが住まう境界が直に接するようになってしまったのが昨今であると。今年になって、住宅地でさえクマに襲われるという被害が数多く聞こえてくるのも、そういうことなのだろうなあと。
里山保全はひとつ竹林の対応のみで解決できるものではありませんけれど、他の木々と異なって成長が早いという特徴は反ってネックともなりますな。それだけに伐採して処分するてなことになろうかと思うも、せっかくの竹を巧く使っていこうという方向で考えられたりもまたするようで。
新しいアイディアとして紹介される中には「これ、なんだろう?」もあったりしましたけれど、編み込んだ竹の隙間から灯りが漏れるランプシェードなどは近頃流行りのモノと言っていいのかもしれませんですね(同類のモノは竹素材でないものも多く出回っていますですが)。
編み込む技法でさまざまな形を作り出すのは竹細工を伝統工芸たらしめてもいますけれど、その編みの技法そのものもまた新しく生み出されているようですなあ。そんなところから作り出される竹の新しい造形は実用とアートの領域にまたがるものとなってもいるようで。
いやあ、なんとも涼しそうな和室ではないかと。暑い夏が続いていただけになおのこと、そんなふうに思えたものです。さらに、上の引用では竹が楽器の素材としても使われていたことが紹介されていましたが、即座に思い浮かんだのがガムランの楽器くらい。それが今では「竹ヴァイオリン」とか「竹チェロ」とかも製作されておるとか。こちらの写真で「竹と楽器」と書かれた下に立てかけてあるのが「竹チェロ」のようでありますよ。「クリアーな音色を発」するものとなっておるようです。
ということで竹の話に終始しておりますけれど、話向きが楽器に及んだところでこの日の外出目的はオケの演奏会であったなと。すっかりこちらの話は余談になりますが、ベートーヴェンのレオノーレ第3番、グリーグのピアノ協奏曲、そしてファリャの「三角帽子」と、あれもこれもの今回読響の演奏会は、いつになくといっては失礼ながら、このオケが昨今さらに充実しているのであるなと窺わせる演奏でありましたよ。
バンと叩きつけるレオノーレ最初の和音からして「おお、ドイツ!」と思いましたし、名曲と言われながらもどうにもピンと来ていなかったグリーグのコンチェルトは中川優芽花というソリストを得てようやっと「おお、なるほど」と思えるようになった、個人的には画期的な演奏でもありましたし(アンコールのショパン「雨だれ」もよかったですなあ)、「三角帽子」は何よりオケの面々も楽しんで演奏していることがよく分かるだけに引き込まれるところがありました。
さらに、その延長線上に(普段はあまり行われることが無い)オケとしてのアンコールで取り上げられた、ヒメネス(どうやらサルスエラを主とした作曲家のようで)の「ルイ・アロンソの結婚式」序曲も、さらに楽しさのおまけ付きといったお得感に溢れていたような次第。と、話は短いですが、この日の満足はこの演奏会にありという思いではおりますですよ。もちろん、竹の展示イベントも興味深かったですけれどね。