昨年(2022年)の秋だったですかね、「ぎふ信長まつり」とやらキムタク登場とあって大騒ぎになりましたのは。それとの関わりを意識するでなく、ただただ何となく映画『レジェンド&バタフライ』を見て、『ああ、この宣伝だったのか…」と。

 

 

ですが、このキムタク信長、文字通りの「うつけ」ではありませんか。2020年放送の大河ドラマ『麒麟がくる』が描いてみせた染谷信長もなかなかに一般的な信長像を覆すものでしたけれど、こちらはこちらで綾瀬はるか演じる濃姫(帰蝶)から「わっぱのようではないか」と呆れられてしまう始末ですものね。今川が攻めてくるのでどうしよう…、足利将軍家が上洛の手助けを求められてどうしよう…と、すぐさま「どうする家康」ならぬ「どうする信長」ではないか、これは!と思ったものですが、要するに脚本家が同じだったのですなあ、なんとまあ(それと知らずに見ていたもので…)。

 

しかしまあ、脚本家の個性なのでしょうか、「どうする家康」でもうろたえる主人公に対して冷静に寄り添う築山殿を描いて、(前にもちとこぼしたようにおやおや…な展開ながらも)夫婦愛を描いてみせていましたですが、こちらもまた信長と濃姫(帰蝶と言った方がタイトルと関連付けやすい?)との、おそらくは史実そっちのけの夫婦愛を描いていたわけで、キムタク信長がひたすらにかっこいいということも無し、むしろ綾瀬濃姫がメインキャラでもあるような。ま、夫婦愛を描くので、Legend(信長)&Butterfly(帰蝶)と思っていればいいのでありましょう。

 

しかし、「どうする?」に陥った信長に助け船を出すのは濃姫であって、例えば信長が桶狭間に突進するにあたってどんな思考であの突撃が敢行されたのかは推し量るしか術がないところを、想像で埋めるとして信長に濃姫が助言をしていたという設定も可能は可能でしょうねえ。ですから、見ながら結末を予測するに、結局のところ本能寺で信長が易々と光秀に討たれてしまうのは、もはや濃姫が亡くなっていたか、遠ざけられていたか、そんなところなのかなとも。濃姫の没年は不詳で諸説が飛び交う状況となれば、いかようにもしやすいですものね。

 

ですが、ちと先に進むに及んで信長はもはや「どうする?」と問うことなく独り立ちしてしまうのですな。こうなると、濃姫の陰が薄くなってしまいますが、これはもそっと先で仲直りする伏線でもありましょうか。家康と築山殿ではありませんが、もともと信長と濃姫の間に深い深い夫婦愛があったとは思いにくいというのは今さらですが。

 

で、先へ進んで独り立ちした?信長は「こうなったら大魔王になってやる!」といささかやけくそ気味。叡山焼き討ちにあたってはむしろ濃姫が宥め役に回るわけで、仲のこじれにもなるわけですね。だもんで、信長としては濃姫の心が離れることが気が気でなくなり、大魔王宣言もどこへやらになってくる。と、そこへ「信長は大魔王たるべし」と尻を叩く役になるのが明智光秀とは。結局、光秀が信長を討つのは「信長に大魔王になる気がないなら、自分がなる」という理屈のようで。『麒麟がくる』の光秀が天下安寧を掲げたのとも、『どうする家康』の(妙に年取った)光秀が私怨にかられたのとも違いますが、この時の光秀の本当のところはこれまた推測するしかないですので、脚本家としては筆が進むところなのではありましょう。

 

と、こういう展開を見てきて、さて結末は?と改めて思い巡らしたところ、あらら、ほぼほぼそれと同じように話は進んで行ったではありませんか。ただ、これは夢落ちというやつで片付けられてしまいましたけれど。

 

ただ、細かくはどのみち想像の産物であるストーリーなれば、荒唐無稽に徹してもいいのかもですね。さまざまな荒唐無稽ストーリー、例えば『信長協奏曲』なんつうタイムスリップものもありましたし。

 

ところで、いささか夢落ち部分のネタバレにはなりますけれど、該当部分を見ながら…というより、見る前からの妄想として思い巡らしたあたりにも触れておこうかと。完全に歴史的裏付けのないことにはなりますが。

 

本能寺で討たれたとされている信長。光秀はその首級を挙げていないことから、実は生き延びていたと。映画のストーリーに擬えますと、濃姫との関係もあり、また自らも戦いの連続に倦んで来ていたことから、雲隠れを画策するわけです。芝居の手助けをしたのはまず明智光秀。織田政権を乗っ取ろうとしていたのは徳川家康であって、家康が信長を討ったことにして、光秀はむしろ信長援軍として駆けつけたことにするわけですね。実のところは信長は逃れて、濃姫と(異国に向かったかどうかはともかく)平穏な暮らしに落ち着いていく。

 

一方、大将を失った織田方は光秀と秀吉(予め信長逃亡計画を耳打ちされていたからこその中国大返しというわけで)を中心に家臣団をまとめて家康を討ち、集団指導体制で織田家の天下を保持しようと目論んでいたわけですが(こんなふうにしないと乱世に逆戻りしますし)、これを好機と秀吉が自らの野望を露わにし、あろうことか光秀を謀反人に仕立てしまう。結果、もっとも織田家の存続を気に掛けていた光秀は主君仇討ちの大義を掲げた秀吉に討たれてしまう…とまあ、こんな話だって想像できますねと。

 

父・斎藤道三の思いを秘めて、いざとなれば信長の寝首を欠く心づもりで織田家に嫁いできた綾瀬濃姫は血気盛んで武芸にも長じておりましたな。どうする状態の信長に戦略を授けたりしていたわけですが、だんだんと穏やかな方に落ち着いていき、最終的にはラブラブの熟年カップルのフルムーン旅行を信長に思い描かせたりもするという、まあ、これはこれでこんなストーリーもありなのでしょう。この辺、以前に触れた「どうする家康」の話よりも穏やかに受け止めておりますのは、史実(通説)と想像のないまぜぐあいが、相互の境界線を踏み越えていないということでもありましょうかね。