年度末でTVは番組改変期ってやつですかね。そんなタイミングだからこその特別企画なのでしょう、TV朝日で放送された二夜連続スペシャルドラマ『キッチン革命』の、取り敢えず第1夜を(例によって遅れて)見たのでありますよ。
主人公の香美綾子(薬師丸ひろ子)がせっせと石段を登って、高台から焼野原になった終戦直後の東京を見下ろすシーンに、東京の町を直下に見下ろす高台となれば「愛宕山でもあろうか…」と思ったものが、綾子の曰く「ここに大学を作るの」というひと言からして、この高台は「ああ、飛鳥山であったか…」と。なにしろ主人公のモデルは、女子栄養大学の創立者である香川綾ですものねえ。同校の校史に「綾は、1950年に駒込校舎を再建し、「女子栄養短期大学」が開設しました」とあって、飛鳥山からならば駒込は望めようかと思うところでして。
ところで、つい先日のニュースで東京・多摩市にある恵泉女学園大学が学生募集停止を発表したと聞き及んだのですなあ。同校HPのお知らせには「18歳人口の減少、とくに近年は共学志向など社会情勢の変化の中で、入学者数の定員割れが続き、大学部門の金融資産を確保・維持することが厳しくなりました」と、閉学に至る苦渋のほどが見てとれますが、ここで言及されている「共学志向」、裏を返せば「女子大離れ」の傾向はおそらく、女子大一般に言えることなのかもしれませんですね。
そも女子大は(とひと括りに言っては誤るところでもありましょうけれど)往々にして創立当時に「女子かくあらん」との思いが反映しているものと思いますが、そのありようとしては「男性と協力して対等に力を発揮できる、自立した女性の育成」を目指した津田梅子の創立になる津田塾大学のような例よりも、裁縫などの実技を習得する学校が前身であるところ、要するに家庭をそつなく仕切る良妻賢母を育てるといった考え方があったような。もちろん、今でもその当時のままを教育理念にしているとは思いませんですが。
そんな中で実は女子栄養大学という学校も、こう言ってはなんですがも当時の女性のための料理学校あたりからスタートしていたかな…と勝手に想像していたわけなのですね。ところがところが、ドラマに描かれたところを見れば(話にフィクション要素が全くないではないにせよ)共に医師である綾子と夫の昇一は病気予防、健康増進の観点からそれまで日本であまり顧みられてこなかった栄養学に着目し、この予防的発想を広く世に広めんとするため、学校を設立するに至ったのでもあるようで。単に料理上手のための実技学校ではなかったのですなあ。
とまあ、かようなことに気付かされてみますと、果たして女子栄養大学が今でも「女子大」たらねばならない理由は奈辺にありやと思ってしまいますですね。栄養学という学問をベースに社会で活躍する人材の育成が目的であるなら、それを女性にのみ求めるのはむしろ違う時代の話?なのではとも。
もちろん、香川綾が医師を目指す過程や医局に勤務する中では露骨に男尊女卑の現実が立ちふさがっていて、驚くことに医学界では今でもその風潮無きにしもあらずなことは、先年明らかになった医科大学の男性下駄はかせ事件でも露呈してしまっておりましたなあ。そんな状況があればこその「女子大」だったところはあろうかと思いますが、その立ち位置が難しくなってきているとは先に触れた恵泉女学園大学が一例にもなっているような。
東京・小平市にある白梅学園短期大学は予て保育関係の教育に注力してきた学校ですが、かつては女子校だったところが今では男子学生も受け入れて、男性保育士を送り出していたりしますですね。もはや保育の現場は女性ばかりではなくなっているわけで。そんなことも思い出してみますと、栄養学の世界もまたと思ったり。もっとも、今でもさまざまなところで女性の立場が確立されていない状況がありましょうから、妙に男性逆差別みたいなことを言うのが趣旨ではないのですけれど。
ま、ひとつの女子大が閉学することをもひきあいに出してしまいましたが、少子化という流れの中、存続が危ぶまれる大学は何も女子大に限ったことではありますまい。大学以前に、公立の小中高が統廃合されたりしている中、今のままの数で大学が存続するのは難しいところでしょうしねえ。相変わらず日本の社会では最終学歴の学校にこだわりがあったりするところがありますので、出身校が無くなってしまうのは大事でもありましょうけれど、すでに大学でも一部には統廃合が起こっていますし、さてはてこの後はどんな勢力分布になっていくのでありましょうか。はてさて、その中で女子大は?でありますなあ。