さてと、東京中央区の江戸橋界隈を歩いていてランチタイムとなりました…というお話。日本橋から銀座の中心部へと続く中央通りは何とはなしに晴れやかで、そぞろ歩きする人たちもいるところながら、その一本お隣で江戸橋を抜ける昭和通りは車も人も営業モードといった感じがところがありますけれど、まあ、昼飯処としては日本橋方面に向かえば必ず、何かしらめぼしいものにありつけるだろうと、江戸橋を渡って日本橋川沿いの北側、つまりはお江戸の時代に魚河岸だったあたりを流していったのですな。

 

と、やおら前方に行列が出来ておりまして、ちょうど昼時ですので「こりゃ、なにかの名物店か?!」と思いましたら、これがラーメン屋だったという。日本人のラーメン好きはあちこちの店前に行列ができることから伺えますな。かく言う当人も決して嫌いではありませんが、行列が大嫌いだものですから気にはなりつつもスルーしますとすぐに、聞き覚えのあるお店の名前を掲げた看板が目に飛び込んできたのでありますよ。

 

 

「たいめいけん」。昔からある洋食屋というイメージながら、屋号がひらがな書きであるとは。てっきり「泰明軒」だと思ってましたが、これは銀座に泰明小学校という公立名門校(?)があることからの類推だったのでしょうか。そのせいで「泰明軒」なる店もてっきり銀座にあるのかと思えば、日本橋にあったのですなあ。

 

歴史のありそうな店だけに、入口前に出ているメニューを恐る恐る覗いてみますと、どうやら店内は2階が本格洋食(今月のおすすめはイベリコ豚のとんかつ4,000円也とか)なるも、1階ではたいめいけん特製ラーメン930円也といった品も提供する敷居の低さで近隣のサラリーマンにウェルカム感を出しているようす。であれば、と入り込んのでありました。

 

この1階フロア、カジュアルたいめいけんと思しきお店でいちばんの名物料理はオムライスのようですな。同店HPにも「看板料理のレシピ」として、たいめいけんオムライスの作り方を(惜しげも無く)載せていますし、WikipediaにはここのオムライスがJALの機内食にもなっていたことが紹介されていたり。ではありますけれど、個人的にオムライス、というよりケチャップライスはどうも…。だからといって、洋食屋さんでラーメンというのもなあ…と、いかにも洋食っぽいメニューを選んだのでありますよ。どうです、ニッポンの洋食!っぽいではありませんか。

 

 

揚げ物にナポリタンとポテサラが付いたワンプレートでして、揚げ物の実体は「牛レバーフライ」、要するに「レバカツ」ですな。オーダー時に「併せていかが?」とおすすめあったのがボルシチでして、これも同店名物であるようす。一品ものを頼むと、ボルシチ(カップスープくらいの量ですが)追加は何と50円!となれば、「お願いします」と言ってしまいますなあ。

 

 

個人的にはもそっと真っ赤で、ビーツごろごろといったふうなボルシチが食べたかったですが、こちらのは万人向けにあっさりと仕上げてあるのか、単にコンソメスープでもあるか?的な印象が。その点、この瓶詰ボルシチは(例によって、近所のスーパーの値下げ品コーナーで発見したものですが)キャンベルスープ缶よろしく、内容量と同量の牛乳(水でも可とあるも、牛乳の方がサワークリームを溶いたような味わいになります)と一緒に煮たてるだけながら、なかなかに野性的な(?)味が楽しめますですね。

 

 

ともあれ、ボリュームたっぷりのレバカツには「ああ、洋食」と堪能したわけですけれど、ふと思い至ったのはこの「たいめいけん」が昭和6年(1931年)創業であるということなのですね。印象としては歴史ある老舗と思っていたので、「昭和かぁ…」と。

 

近ごろではTVのニュース番組の中でもずいぶんと飲食店の紹介コーナーが設けられていたりしますですが、そこで取り上げられるお店が「創業50年の老舗」なんつう言い回しで紹介されたりもして、少々の座りの悪さを感じたりしていたもので。50年というのは「老舗」なのであるかあ?と。50年前ってのは1973年、昭和で言えば48年ですから、東京オリンピック(昔のです)よりも大阪万博よりもあとのことですしね。どうも「老舗」の安売り状態なのかもです。

 

単純に「老舗」と聞いて思い浮かべるのは創業が江戸期以前に遡るようなお店という印象で、日本橋界隈には「にんべん」やら「山本海苔店」やらといろいろある(ま、いずれも飲食店ではありませんが)わけですが、戦後どころか、万博後の開業店を老舗というには抵抗があるところでして。

 

もっとも、この感覚には年代差も大きいところでしょう。人によって「自分が生まれる前からやってるお店」だったりすれば、十分に老舗感を抱く可能性もありましょうし。翻って、「たいめいけん」はといえば、自ら老舗を名乗るほどのおこがましさはないわけで、単純に受け手の印象ですけれど、昭和6年(1931年)開業とは悩ましいところながら、goo辞書に曰く「老舗」の定義として「代々続いて同じ商売をしている格式・信用のある店」てなふうにもあり、実際に創業者から代替わりしても続いているということを鑑みれば、どうやら「老舗」認定も可能なのであるかなと。ま、個人の印象ですけれどね(笑)。