タイトルからしててっきりディザスタームービーだとばかり。何せ『白頭山大噴火』ですものねえ。さりながらこの2019年の韓国映画、どうやら大噴火そのものはあくまで背景であったような。どうしても『JSA』とかそのあたりをも思い浮かべて、半島情勢抜きには語れないということになりましょうか。

 

 

白頭山(ペクトゥサン)とは北朝鮮と中国の国境近くに実在する火山で、近頃は鳴りを潜めているものの、有史以来何度も噴火しているのであるとか。卑近なところに擬えれば、富士山大噴火みたいなところでしょうかね。ただ、映画の作りとしてはおそらく日本で富士山噴火を扱ったディザスタームービーが作られたら、ここまで練り込まれた話にはなっていなかっただろうなあと、つくづく…。まあ、ポリティカルな環境が全く異なりますしね。

 

一方で、噴火に伴う大きな地震が半島各地を襲い、韓国側のソウルでも次々とビルが倒壊し…といった場面があるのですけれど、この地震被害の再現には結構違和感を抱くことになったりも。ビルが次々倒壊する中を自動車は普通に走っており、しかも対向車線の逆走アクションなどとして描かれているのは余りと言えば余り…な気がしたものです。

 

かつてハリウッドでは(ディザスターという英語が日本で馴染まれる以前)「パニック映画」なるものがたくさん作られて、例えばロサンゼルスに大地震が発生したという設定の映画『大地震』(1974年)などは自然の猛威そのものの地震をリアルに感じてもらおうとする余り、「センサラウンド」なる特殊音響まで考案されましたですね。これでアカデミー賞の音響賞まで受賞しましたけれど、(ありがたくはないことながら)地震慣れしている日本人にとっては「ん?!」という以外の何物でもなかったような。ともあれ、自然の驚異、災害の怖さを強く訴えていたのがパニック映画であったわけですね。

 

翻って『白頭山大噴火』にその要素が無いわけではもちろんありませんですが、朝鮮半島崩壊の危機と言いつつも白頭山は北朝鮮の最奥、中国の国境辺にあり、描いているのは南の韓国側ですから(繰り返しになるものの)ポリティカルな要素が入り込むの必定ですな。先に『JSA』を思い出すといった所以です。もっとも、あまりたくさん韓国映画を見ているとはいえませんので、彼の国の映画として『JSA』とだけ並べて語るのは個人的に見た範囲で思い出すものであったとしか言えませんですが。

 

とまれ、ディザスタームービーとしての描き方が昔のハリウッド製よりも凝ったものへと変わっていたわけですけれど、「変わっておらんなあ」と思うのは日本での宣伝方法でしょうかね。上のフライヤーに「世界90カ国が激震!」と大書されていることで、白頭山が噴火すると世界90カ国が地震に見舞われるのであるか?!という勘違いはよもや生じないでしょうねえ。つまりは、多くの国でこの映画がヒットしていることを話の中身にひっかけて「激震」と表現したわけで、これはもう、ひと頃やたらに使われた「全米が震撼」という宣伝文句のバージョンアップなのでありましょう。かつて、アメリカ映画の予告編を見るごとに「全米というのは、よくまあ震撼してものなのだねえ…」と冗談まじりに思ったものでありましたよ。

 

ただ、現実問題として今後も白頭山が噴火する可能性は無いとは言えず、万一かつて記録に残るような規模で噴火した場合には、2010年に起きたアイスランドの火山噴火を遥かに上回るであろうことがWikipediaに記述されておりますな。アイスランドの時には欧州の航空路が全て止まったのでしたね。も少し近いところでは、1991年にフィリピンのピナトゥボ山が大噴火して、大気に大きな影響を与えましたし…と、そんなことを考えますと、火山のたくさんある日本では他人事では無いような。もちろん、南海トラフなどの地震への備えと同時に、さまざまな自然災害が起こりうるという心の準備はしておいた方がよさそうですね。