NHKで先日放送(地上波では再放送ということですかね)された『昭和歌謡ミュージカル また逢う日まで』を、つい「昭和歌謡」という言葉に釣られて見てしまったのですなあ(と、今頃話に出すのは録画で見た故ですが…)。NHKのHPにある番組紹介には、このようにありますな。

山口百恵、ピンク・レディー、松田聖子、中島みゆき、尾崎紀世彦が歌った 昭和の名曲を、2000年生まれの福本莉子が令和の世によみがえらせる! 歌って踊ってちょっぴり切ない成長物語!

人生の半分くらいを昭和に過ごした者にとっては、山口百恵、ピンクレディー、松田聖子らの曲が出てきますと確かに「懐かしい…」とは思うところながら、これらが皆「昭和歌謡」という括りになるのであるか…とは、正直なところでして。

 

別に「昭和レトロ」なんつう言葉も聞かれますけれど、これはてっきり映画『ALWAYS 三丁目の夕日』あたりが火をつけたものかという思い込みから、「昭和レトロ」の示すところは映画の時代設定である昭和30年代あたりかと思っていたわけなのですな。そんな『昭和レトロ』から類推して、『昭和歌謡』なるものもその頃の歌、いわゆる「なつメロ(懐かしのメロディー)」と言われるものの中で比較的新しい曲といったふうに受け止めていたわけです。

 

こうした受け止め方は当然にして年代差があるようでして、平成生まれが30代にもなろうという令和の世にあっては山口百恵も松田聖子も、再発見された古い歌ということになるのでありしょうかね。あれこれネット検索してみますと、「昭和レトロ」どころか「平成レトロ」なんつう言葉まで目に飛び込んでくるのですな。平成でさえもはやレトロ感をまとっているのであるかと気付かされることに。中村草田男の句「降る雪や明治は遠くなりにけり」を借りて、「昭和は遠くなりにけり」てな感懐もまたネットの世界に溢れている由縁でもありましょうか。

 

ところで、「昭和歌謡ミュージカル」を標榜するこの番組の時代設定が「バブル真っ盛りの昭和63年」(wikipediaより)とされている点には「おや?」と。そも歌謡曲というのは使い捨て文化の象徴のようなもの(だからこそ次々と新曲が繰り出されもして)だったと思いますので、山口百恵は引退し、ピンクレディーは解散し…とすでに「過去の人」化しつつあった中、目先の目新しいものを金に飽かせて追い求めたバブル期(個人的には全く恩恵を受けた記憶はありませんが…笑)にこれらの曲を取り上げてきたのはいささか「どうよ」感があるところでもあろうかと(もちろん、この点も受け止め方には年代差がありましょうけれどね)。

 

ただ、考えてみればABBAの曲を使ってミュージカル『マンマ・ミーア!』が作られたように、それぞれの曲がいつのものであったかどうかといったことはともかくも、単に曲(の持つ雰囲気)を当てはめて新しい物語を再構成するという形はあるでしょうから、ひとつひとつの曲がいつヒットしたものであるとか、バブル期の物語に馴染むものであるかとか、そういうことを考えるのはむしろお門違いなのかもしれませんですね。どうしても、その頃の同時代人としてはそれぞれの曲が思い浮かばせる記憶というものがへばりついているために、そこから離れにくいが故にかようなことをぐだぐだと。これもまた、老人力なのでありましょうかねえ(笑)。