一日のお休みを頂戴するに「野暮用」で申しておりましたですが、これはひとえに「いささか気恥ずかしく…」というところでもありまして。出かけて行ったのは浅田真央アイスショー「BEYOND」の東京公演でありましたよ。

 

 

会場で早速に同行者が購入していた公演パンフレットがこの画像ですけれど、これだけでもなんとなあく気恥ずかしく感じるところを想像いただけようかと思うところながら、会場内の男女比はおそらく1:9くらいの状況でしたのでねえ(笑)。

 

とまれ、さる筋からお誘いがありまして、「なかなか取れないチケットなのだ」と聞かされつつ、もはやほとんど千葉県とも言うべき東京の東のはずれ、江戸川区スポーツランドのアイススケートリンクに出向いたわけですが、いったいなんだってこんな僻地(失礼!)に?旬の過ぎた芸人のどさ廻りでもあるまいに…とも。なにしろ公式サイトにある交通アクセスに曰く、都営地下鉄新宿線の瑞江駅あるいは篠崎駅から、JR総武線の新小岩駅あるいは小岩駅から、東京メトロ東西線の南行徳駅から、はたまたJR京葉線の新浦安駅から、全てバスで行くといかねばならんという場所ですのでね。帰りが遅くなるのと、もしかすると余韻を楽しむためにも?公演後は下町あたりのホテル宿泊まで込みでのお誘いということで、一日のお休みとなった次第でありますよ。

 

さりながら、なんだってこの会場?ということにつきましては、出かけてみて初めて主催者側の深謀遠慮があったのであるかと思い至ったのですなあ。なにしろ、江戸川区スポーツランドのお隣には京成バスの江戸川営業所(要するに車庫)がありまして、終演時には瑞江駅まで直行の臨時バスを出すというのですが、車庫であればバスの調達は実に容易なわけで、大勢の観客がいっときにゾロソロ出てくるのを何台ものバスが待ち受けて続々と発車していく手際には感心したものです。大規模イベントを手掛ける側としては、会場選びの段階からこうしたことにもきちんと気を配っておかねばならんのですなあ。

 

と、余談ばかりが長くなりましたけれど、もはや競技ではありませんので得点がどうのということのしがらみから解放されたスケーターたちが、リンク全体を縦横無尽にのびのびと滑走する姿は清々しくもありましたですよ。ですが、特別にアイスショーそのものに興味を抱いて出向いたわけではない者にとりましては、ショーをみながらいろいろと思い巡らしをしたりもしたところでありまして。

 

かつて「(音楽の)演奏家はアスリート、音楽は体育会系でありますよ」てなことを書いたことがありましたですが、フィギュアスケートというもの、当然にしてスポーツと見られているものの、競技では(昔のような芸術点という方式はとられなくなったものの)表現を(どうやら音楽の解釈も含んで)得点化するとなってきますと、数々の音楽コンクールが思い浮かびますし、ましてバレエのコンクールなどとの近似性に思い至ったりもするのですね(そもそもショーの構成要素としてもクラシック音楽が多用され、振付にはバレエ的な要素が随所にありますし)。

 

で、異なるのは競技、コンクールへの臨み方ということになりましょうか。例えばNHKで紹介されたりするローザンヌのバレエ・コンクールでは、若手発掘が主眼であって、このコンクールに入賞すると世界の名だたるバレエ学校へ入学できたり、有名バレエ団の研修生になれたりすることで、プロとしての将来への道が開けることになるのですよね。要するに、あくまで目標はプロとして活躍することにあるわけです。

 

翻ってフィギュアスケートの場合では、コンクールならぬ競技会で活躍することが目標であって、プロになるというのは競技選手としての活躍から(言葉は悪いですが)一丁上がりの領域に入るとも言えてしまうような。そこでは、かつての芸術点というものが廃されたことからも言えるのかもですが、表現以上い技術が大事、テクニック(何回転ジャンプが飛べるとか?)あってこその世界なのですかね。そうは言いながら、見ている側もおそらくは選手の側も表現の美しさを忘れてはいないのではなかろうかと。

 

あまりフィギュアスケートのことを知らない者があれこれ言うのもなんですが、トリノ・オリンピックの金メダリスト・荒川静香にとって、いくら得点にはなりませんよということであってもイナバウアーをやるんですな。これは自らのスケートを美しく見せる術であることを知っているからなんじゃないかなと思ったりしたわけでして。

 

てな具合にあれこれと思い巡らしつつ見ていたアイスショーですけれど、ショーとなれば力点は表現の方に置かれるものと思いますが、ここでの表現というのが観客に楽しんでもらえるパフォーマンスに留まるとすれば、少々残念だなとも。もちろん、この日のスケーティングがどうのこうのと言っているのでなくして、競技から離れたフィギュアスケートのありようとして、氷上のバレエ的なところを超えて、ひとつの芸術的な世界を構築できるポテンシャルがあるのではなかろうか、それをエンタメ的なところ(それがいけないとは言いませんが)にとどめてしまうのはもったいないような気がしたのでありますよ。

 

先ほども触れましたがプログラムの中にはクラシック音楽を多用して、バレエ的な振付で見せるところがある。例えば「シェエラザード」、「カルメン」、極めつけは「白鳥の湖」でしょうか。すでにして「氷上バレエ」という言い方もあるようですけれど、バレエの亜流的なものでない、独り立ちしたフィギュアスケートならではの動きで見せる芸術的世界がおそらくあるのだろうと。仮にそっち方向に舵を切ったとすると、現状を現状のまま楽しんでいる方々が離れていくことになったりするかもしれませんが、あってもいい方向性ではないかなと思ったりするのでありました。