今回は桜田門に来ています…と、やおら『ブラタモリ』ふうに(笑)。まあ、桜田門が夙に知られるのは井伊直弼が暗殺された桜田門外の変ですから、門そのものがどうのこうのということでもありませんで、むしろ「桜田門」とは警視庁を指して言うこともあろうかと。ロンドン警視庁をしてスコットランドヤードというが如し(?)です。

 

ともあれ、その警視庁とは桜田通りを挟んで反対側の交差点角に立って後ろを振り返りますと、そこは広がる敷地はかつて「米沢藩上杉家江戸藩邸跡」という解説板がありました。これまた先日の『ブラタモリ』で取り上げていましたように、都心はあちこち大名屋敷だらけであったことが偲ばれるところですかね。

 

 

 

ところで、このかつて米沢藩邸があった場所にずいぶんと立派なレンガ造りが見えておりますね。現在は法務省になっていますけれど、1895年に旧司法省の庁舎として建てられたものが戦時の空襲を経て、応急処置していたところを1994年の改修で元の姿に戻して今があるということのようで。ま、東京駅を創建当時の姿に戻したのと同じような発想かもです。それがこちら。

 

 

とまあ、そのような法務省の建物に何か用が…?ということになりますが、実は先日訪ねた明治大学博物館で案内リーフレットを見かけたのですなあ。博物館や美術館を訪ねますとあちこちで他の施設を紹介するリーフレットや展示告知のフライヤーを目にしますけれど、そうしたもののひとつ。ほかではおよそ目にしたことがなかったですが、明大にはかつて刑事博物館があったものですから(現在は、今の博物館に統合)、そのあたりが法務省のリーフレットが置かれていた所以でありましょう、おそらく。

 

で、訪ねたのはこの建物の中にある「法務史料展示室」というところでして、門衛の方に尋ねると首にかける入館証が渡されて、展示室以外には絶対に近づかないよう釘を刺されるのですな。建物の入り口では別の係員が待ち構えていて、展示室のある3階まで「ご案内します」と。その口調には「黙ってついてこい」という、いささかの圧がありましたなあ。拘置所や刑務所を管轄する役所っぽいな…とも密かに考えたものなのでありました。

 

そんな圧はありましたけれど、展示室(もちろん?館内撮影不可でして)は実にきれいに設えられておりましたですよ。幕藩体制が終り、明治を迎えた途端に欧米に倣った法体系も整えなくではならないという、お雇い外国人頼みのようすが窺い知れたような次第です。

 

さりながらそこはそれ、明治の世にありがちな藩閥相互のしがらみからは抜けきれないといった印象も。初代司法卿として法制度の近代化に取り組んだのが江藤新平ですけれど、薩長土肥の末席(?)に連なる肥前佐賀藩の出身ですのでね。フランスからやってきたボアソナード(ということは、頭にあったのはナポレオン法典?)らの協力を得て民法典の制定に着手し、「民法仮法則」を作成するも結局は日の目を見なかったようで。

 

とりわけ井上馨を始めとして長州閥とは折り合いが悪かったそうでして、ほどなく征韓論のばたばたのうちに江藤は下野し、そればかりか佐賀の乱の頭目に祭り上げられてしまう。結果、自ら手掛けた近代司法によってお縄を頂戴することになろうとは、江藤も苦笑いを禁じえなかったでしょうなあ。

 

とまれ、国の側が法体系の確立を目指す一方では、法曹を担う人材育成も急務となっていて、官立の東大(東京帝国大学)はもとより、明治13年(1880年)から私立でいくつもの法律学校が設立されていきます。例えば和仏法律学校(現在の法政大学)、明治法律学校(現在の明治大学)、英吉利法律学校(現在の中央大学)、関西法律学校(現在の関西大学)、日本法律学校(現在の日本大学)といった具合。ちなみに和仏法律学校はその名のとおりにフランス法が意識されていますので、かのボアソナードも講師として加わったことから、法政のメインキャンパスにはボトル・タワーなる高層校舎がありますですね。

 

と、いささか展示から話が逸れましたが、明治期の法律は促成栽培的なところもあったでしょうし、また法解釈の点では誰もが慣れていないわけでもあり、地方裁判所から司法省へと適宜問い合わせがあったようす。中にはお上にお伺いを立てる的なものもあったでしょうけれど、展示を見て「これが児島惟謙の問い合わせであるか」ともなりますと、ついつい前のめりになったりも。ご存じのように、のちの大審院長となって大津事件にあたり、政治介入を頑として跳ね付けた司法の独立を守った人として知られておりますな。

 

まあ、法制史を辿るのとはまた別の見方をしてしまいましたですが、それなりに興味深い展示ではあったような。もっとも「どなたにも一度はどうぞ」という内容ではないような。法務省としては、ともかく法律を身近に感じてほしいというPRの一助になればと考えているようですけれどね…。