桜の話をするといって、2022年の桜前線はすでに東北北部まで到達しているようですのでいささか時期遅れ感は否めないものの、まあとりあえず、山梨のお話を。

 

今回、小淵沢に出向くにあたって当初から桜見物を目論んでいたわけではありませんですが、たまたま「韮崎・北杜地域みっちゃく生活情報誌」を標榜する『なないろ』というフリーペーパー(道の駅や各種観光施設で入手可能)を手に取りますと、巻頭特集が「特選 桜の名所」という紹介だったのですなあ。

 

見れば「近くにいろいろあるなあ」と思うところでして(それもそのはず、韮崎・北杜地域の情報誌ですので)、前日に近所の桜がもうひと息の状況と見てとったことでもあり、やおら気温急上昇の予想にあっては一気に開花が進むであろうと思い立ち、近くであることを良いことに桜見物のはしごに出かけたのでありましたよ。

 

最初に訪ねた場所は小淵沢駅と長坂駅(東京寄りにひとつ手前)の中間くらい、ちょうど中央本線の線路から北側すぐですので、気を付けていれば車窓から眺めることもできましょうかね。「神田の大糸桜」と言われる一本桜です。

 

 

何とも存在感がありますけれど、情報誌『なないろ』の紹介文にはこのようにありましたですよ。

樹齢400年のエドヒガンザクラの変種で、戦国から江戸時代に世が移る頃芽生えたと考えられています。(山梨)県内でもまれな枝垂れ桜の巨木で樹形も良く、県の天然記念物に指定。

そして、桜の目の前にあった解説板からも少々の補足を。

累代幕吏をつとめた、小松氏の祖先が広野神社を創設し、その供米産田を神田と称し、その畔にご神木として植えたのが神田の大糸桜である。

ということで、「神田」は「かんだ」ではなくして「しんでん」と読むでしたか。神様向けの米を作る田んぼのご神木であったのですなあ。ともあれ、あたりは広々として木の間越しに甲斐駒を望むロケーションはなかなかですけれど、いかんせん樹齢400年とも言われるだけに(『なないろ』には「樹形も良く」とはあるものの)あちらこちらを杖?で支えられねば立っていられないご老体、むしろ痛々しさを感じてしまったりしたものです。

 

 

ちなみにこの方角からは、後方に八ヶ岳が見えておりますよ。ところで、この場所にたどりつく前、そこここにわりと立派な桜の木が見られたものですから、お目当ての桜は「あれか?これか?」と迷いかけたりもしたのですな。近くで案内に立っていた地元の方(たぶん)が教えてくれたところによれば、近くに植わっている桜のルーツはおよそこのご神木にありということなのでありましたよ。

 

折しも先日の東京新聞夕刊(4月7日付)には桜の話題が載っておりまして、その中にはこのような解説が。

ソメイヨシノは江戸時代に野生種のエドヒガンとオオシマザクラの交雑で生まれたとされています。…ソメイヨシノの接ぎ木や挿し木で増やされます。遺伝子解析の結果、全国のソメイヨシノは同じ遺伝子を持つクローン個体だと分かっています。

と、記事はもっぱらソメイヨシノのお話ですけれど、そのルーツのひとつであるエドヒガンザクラ、それが神田の大糸桜の正体(?!)でもあるわけですが、あたりにはこれのクローン個体が数多棲息しているということになりましょうかね。例えばこんなのとか、あんなのとか。

 

 

 

さすがに子孫の代は勢いがいいですなあ。果たして神田の大糸桜の命運はいつまで保たれましょうか。広々とした場所だけに、大風が吹き抜けたりすればポッキリ…などということもありそうな。それでもあたり一帯にはしっかりと遺伝子を受け継ぐ桜たちが弥栄を誇っている。大糸桜も本望でありましょうなあ。