東京・福生市の素封家・田村家の、分家の方が住まっておられた住宅(旧ヤマジュウ田村家住宅)をひと巡り見て回った後、今度はご本家を訪ねることに。かような黒板塀越しにいくつも蔵が並んだ先に入口があるという。

 

 

稼業としては「田村酒造場」という造り酒屋でありまして、このようすに接するまではこぢんまりとした酒蔵でもあるかなと、勝手に思い込んでおりましたが、どうしてどうして。思い込みは禁物でありますなあ。

 

 

そもかような思い込みの元には、やはり福生市内にある石川酒造の存在でしょうかね。そちらで造っている「多満自慢」という銘柄のお酒は近所のスーパーなどでもよく見かけるものですし、酒蔵見学にしてもオンラインで受け付け、いくらかバリエーションのあるコースが設定されており、出かけてみればレストランや史料館まで併設されているという具合。こうした、いろんな意味での手広さから多摩地域では随一の立ち位置にあるのかと思ってしまったのですな。

 

さりながら、商品を積極的にスーパーに出すことですとか、酒蔵自体をテーマパーク的に設えることですとか、そうした知名度アップ、集客力向上の積極策を展開している「から」といって…というところもありそうですね。例えば沿革をたどりますと、石川酒造の創業は文久三年(1863年)であると。これでも十分に歴史あるところなわけですけれど、こちらの田村酒造場は文政五年(1822年)と、一日の長があるようで。だからこそかもですが、近郷近在、さらには武蔵国一帯の酒蔵・酒店と提携し、その総本店となっていたそうな。どうも御見それいたしました。

 

 

ともあれ、あらかじめHPで「酒蔵見学は当面の間中止」とは見知っておりましたが、入口に入ってはいけないようには書かれておりませんでしたので、恐る恐る?中へと足を踏み入れてみます。せっかくですので、四合瓶の一本も買って帰ろうと思いまして。

 

 

前蔵と呼ばれているらしい、こちらの幟旗の立った建物が「展示販売ギャラリー」であるようで、なるほどお酒の商品ギャラリーとして雰囲気ある空間になっておりましたですが、どうやらコロナ禍の折、ここでの展示販売はお休みと。片隅には試飲用でしょう、お酒のサーバーが用意されているも使われないまま。あとから従業員の方に伺ったところでは、コロナ直前に新しいサーバーを入れたのに、すっかりお蔵入りの状態だそうで。残念ですなあ。

 

 

とまれ、前蔵での販売は休止中として、「購入は受付にお申し出ください」ということでしたので、受付の方にまわって「純米吟醸を1本ください!」と。すると、時期的に新酒を搾った結果としてたくさん生じたのか、「酒粕をプレゼントしています」というのはいいとして、「おいくつお持ちになりますか?」とは余っているのであるか。まあ、通常時であれば、それなりに酒蔵見学の人がわさわさ現れて、お酒を買う人ごとにひと袋プレゼントてなことかもですが、やはり訪問者が少ないということなのかもしれませんですね。

 

ちなみに、こちらの銘柄は(入口前にも大書されていましたように)「嘉泉」というもの。「代表酒銘の『嘉泉(かせん)」は敷地内に酒造りに最適な水を得た喜びに由来いたします』ということで、「水を得た」とは「いい水の井戸を掘りあてた」の意であるそうな。敷地のすぐ外を玉川上水が流れているのですけれど、そちらから引き入れた水は雑用水であったようですな。やっぱり地層の濾過を経た地下水こそが酒造りには必要だったのでありましょう。

 

 

ところで玉川上水側には、流れに面しておそらく今では使われていないであろう門がありましたなあ。往時はここから舟運でもって酒を運び出したりもしたのであろうかと思ったりしつつ、「嘉泉 純米吟醸」をおいしくいただいたものでありましたよ。最初はさらりとしすぎのように感じるも、思いのほかしっかりとした風味が後から追いかけてきて、身も心もいい感じに…とは、自宅に戻ってからのお話ですが(笑)。