読響の演奏会で池袋に出かけた折、
西武百貨店内のギャラリーでやっていたマイセン展を覗いてみたのでありますよ。
デパートのこの手の企画は、いわば展示即売会みたいなものだとは思ったわけですが、
端から「I'm just looking.」とは申し訳のないところながら…。
日独交流160周年と書かれてあるのが見えますけれど、万延元年十二月(西暦では1861年1月)に
徳川幕府とプロイセンとの間で修好通商条約が結ばれたことを外交関係の樹立として、
以来160年ということのようで。日本でも、もちろんドイツでもさまざまなイベントが開催されているようですが、
まあ、この展覧会(展示即売会?)はその一環というよりは肖ったものといいましょうかね。
ともあれマイセン展とは、言わずもがなながらマイセンの焼きもののことですな。
ザクセン州のマイセンという地名でありながら、そのままに焼きものを指すとはあたかも「伊万里」のごとしかと。
まずは中国から、そして後には伊万里などからもたらされた白磁は欧州各国垂涎の品だったようで、
いち早くこれの国産化を図ったのがザクセン選帝侯アウグスト2世。Wikipediaの紹介には
「錬金術師ヨハン・フリードリッヒ・ベトガーを幽閉し、白磁を作るように命じた」とありますから、乱暴な話です。
されどその甲斐あってマイセン窯が誕生し、ヨーロッパの焼きものとして今でも伝統と権威を誇っている。
ちなみにこちらの方はすでに300年を超える歴史ですので、そのつながりは160年を優に越えているわけで、
国と国との正規の?外交などとは違った面で、ひととひととは繋がり合うものなのですなあ。
とまあ、そんな成り立ちのマイセンですので、東洋風の(借り物)模様が多いのは当然。
模様のエキゾチックさも含めた人気であったでしょうから。とはいえマイセンの職人たち、
自分たちならでは作品作りにも精を出すわけでして、その代表として挙げるのが適切かどうか…ですが、
結構マイセンにはフィギュア作品が多いですよね。それもひとりの人物像でなくて、劇場型といいますか。
例えば貴族のご婦人が火遊びの最中、予想外に帰り現れたご主人に慌てて間男はベッドの下に隠れるも、
小間使いに犬をけしかけられて、隠れ場所から飛び出して露見した…というその瞬間を象った作品とか。
時代はロココ、思わずフラゴナールの絵を思い出したりするところですなあ。
そういえば近しい時代だけに、ゲーテもヴァイマールの宮廷でロココ的なるふるまいに興じていたかも…。
ところで、今回展には面白いコーナーがありましたですね。曰く「炎のいたずら」と。
マイセン磁器はまず900~950度で素焼きするのだそうですが、
窯の温度が900度に達するまでおよそ15時間、その後温度を保ちつつ30時間焼き、
さらに15時間かけて冷ましていく。ここまでが第一段階ですな。
その後釉薬をかけて行う本焼成は1,450度で30~72時間と言いますから、
温度を一定の保つよう目を離せないとなれば、大変な作業でありますなあ。
とまれ、かように高温で長い時間がかかることになりますと、
窯の中で焼きものはかなり強い炎の風に晒されることになるのだそうで。
結果、歪んでしまったり、カップの把手が取れてしまったり、二つの器がくっついてしまったり。
つまり炎のいたずらというわけで、そうした失敗作が展示されていたのでありますよ。
もちろん、職人たちは失敗しないよう細心の注意を払って原型を拵えているとは思いますが、
黙っていても本焼成では(すでに素焼きされているのに)窯に入れる前と窯から出した後では
およそ16%ほど収縮してしまうそうで、これを見越して元を作るだけでも気を使うものであろうなと、
素人としては思うわけです。
そんなこんなで美しく仕上げられたマイセンの器や人形は当然、高価なものとなりますな。
展示即売会だけに値段がはっきりしてますから、とても(庶民感覚では)普段遣いできる食器ではないと
思ってしまいましたですよ。
セットもののカップ&ソーサーなどには全くもって手がでませんので、
ヴィドポッシュ(空のポケットを意味するというこの言葉、初めて知りましたですが)くらいなら、いいかもと。
それでも最低で万円単位なのですから、そのうちに(と、いつになることやらながら)ドレスデンにでも
出かける機会がありましたらマイセンにも寄って、それこそ炎のいたずらで廃棄寸前の出物(?)を
探してみることにしますかね(笑)。