物議を醸す本というのがありますけれど、これもそんなところがありましょうなあ。

『土偶を読む』という一冊でして、いかにも考古学の範疇にあろうかと思われる土偶を扱って

考古学者でない著者ならではとも思える新機軸の提示に湧く向きもあり、

考古学者でないが故に眉を顰める向きもあり…ということで。

 

 

著者は人類学者だそうですけれど、ふと土偶に興味を抱いて

遮光器土偶(宇宙人をも思わせる超有名土偶)のレプリカを入手し、矯めつ眇めつしているうちに閃いたようで。

「これ、サトイモに似てるんじゃね!」と。

 

そこから、ハート型土偶とかみみずく土偶とか、はたまた縄文のビーナスと呼ばれるものなど、

各種の土偶は何を象っているのかを探究したところ、それらはすべて(?)植物や貝など

縄文人が食したものをモチーフにしており、おそらくはそれらの豊穣祈願のために作られたのだと

結論付けているのですなあ。


副題に「130年間解かれなかった縄文神話の謎」とあることから著者の自信、というか確信のほどが

伝わってくるところなのですが、「なるほどね」と思うところもないではない一方で、

「これしかないでしょ!」と従来の他説を全否定するような(そして何とも新発見が自慢げであるような)

そんな書きようには「うむむ…」と引かざるを得ないとも思うところです。

 

まあ、新しい視点として、今後の研究を俟つてな言葉もあったやには思いますけれど、

本書の書きようからして一時の盛り上がりで終わるかもしれませんですね。

もちろん考古学に携わってきた方々が一朝一夕で飛びつける話ではないにしても、

更なる解明に協力してやっていきましょうという気にならない(させない)のは残念といいましょうか。

 

従来言われてきたように、基本的に土偶は女性を象って、子孫繁栄の祈願が込められていると見るだけでは

受け止めにくいタイプのものもたくさんあるだけに、まだまだ研究の余地はあるのでしょう。

 

ですから、あるタイプのものは植物モチーフとしてその豊穣祈願に使われたかもしれないものもあるのかも。

でも、一事が万事であるようにも思えないと言いますか、何も全て植物(一部に貝)と決めてかかるのでない

柔軟な解釈も必要なのかもしれません(どうも植物見立てありきになってしまっているようで。

 

ともあれ、読み物としては興味深くは感じましたですね。

結論付けはともかく、「もしかして…」と思い付いた仮説の裏付けとなるようなものを探し歩く姿は

夏休みの自由研究をたどるようで面白かったなと思ったりもしたものです。