千葉県の東の端、海に突き出た犬吠埼のあたりをトコトコと走っているのが銚子電鉄ですけれど、
銚子電気鉄道株式会社という正式名称にして、業種区分は食品業に位置付けられておるとは。
長きにわたって経営不振と伝えられるも、折々にぬれ煎餅(銚子は醤油で有名ですし)やら
「まずい棒」(経営状況は極めてまずいが、どうやらおいしいらしい)やらと、
食品販売の副業によってなんとか電車を走らせているようで、
Wikipediaにも「年5億円程度の売上高のうち鉄道以外が8割を占める」との記述が。
まあ、食品業と言われても仕方のないところでありましょうか…。
とまれ、そんな調子の悪い銚子電鉄が本業の不振に悩まされつつも、
なんとか電車を動かして続けてるための涙ぐましい努力を紹介しているのが、
交通新聞社新書の一冊、「廃線寸前!銚子電鉄 “超極貧”赤字鉄道の底力」でありました。
ちなみに銚子電鉄はゆっくり走ることで知られておりますけれど、
本書の中でも自転車との競争をやってみたことが記されていて、何と僅差で自転車の勝利。
どうやら早く走らせるには変電設備や車両自体の老朽化など、やむにやまれぬ事情もあるようで。
設備更新ができない、車両は他者のお古(それも相当に)を安く調達するなどなど、
こうした点でも苦労がしのばれるところでありますよ。
そんな状況下、現在の社長(この方も引き受け手が無くなったところを臨時にと言われて就任したようす)が
「絶対にあきらめない」姿勢を貫きとおして今があるわけですが、あきらめないための手段が
先にも触れた食品販売やらその他物品販売、各種イベント列車の運行などなどであるようです。
しかしまあ、「まずい棒」が端的に表しているように、ほとんど冗談かと思われるほどに
自らの経営状況がよくないことを公言して憚らない。自虐ネタとも言われる所以ですけれど、
これが話題性の提供にはなっておりますな。
ちょうど今、銚電のオフィシャルサイトを見てましたところ、トップ記事として出てくるのが
サビが止まる!ボロボロがピカピカになる?!サビ転換塗料「サビキラーPRO ボロピカ EX 」の販売を開始します!
というもの。およそ電鉄会社のHPとは思えぬお知らせですが、こんな一文が添えられておりましたよ。
この「ボロピカEX」は赤サビを黒サビに転換することで、サビの進行を止めるという特徴があり、この技術で弊社の経営状況も赤字を黒字に転換し、なんとか鉄道の存続を図って参りたいと考えております。
ただただ闇雲にさまざまな商品販売に手を出すのではなくして、
この商品はこんな思いで販売するに至ったのですよというメッセージが伝わってくる。
これがなんとなく銚電を応援してやりたくなる気持ちを醸す元になっているのでもありましょう。
本書にはさまざまな企画を検討するようすが書かれていますけれど、
自由に、柔軟に何ができるかを考えているのですよね。
こういってはなんですが、仕事としては実に楽しそう。ただし、大赤字を抱えていなければですが。
そうはいっても、もしも赤字を抱えていなかったならば、
銚電を広く知らしめることになったさまざまな企画は出てこなかったでしょうなあ。
関東最東端、犬吠埼やら地球がまるくみえる展望台やら、ジオパークなども抱える場所ながら、
銚電の沿線にはいわゆる絶景ポイントと言われる地点がまるで無いということで、
いわゆる乗り鉄にも撮り鉄にも魅力は乏しいようす。
車で出かけてしまう観光客が多いのかも…と言っている当の本人もまた、
先年銚子近辺を巡ったときには車便乗で出かけてしまいましたし。
ただ、無から有を生み出す企画力勝負の銚子電鉄、
自然天然に絶景ポイントが無いのならば作ってしまおうという気概には溢れているようですので、
これからもさまざまな取り組みで世の中を賑わしてくれることでありましょう。