またまた近隣詣ででありまして、訪ねたのはJR国立駅前のたましん歴史・美術館。
多摩ゆかりの作家である倉田三郎を取り上げた作品展が開催中でありました。
画家という以上に教育者として知られるようである倉田三郎は、長らく立川や小金井に住い、
多摩地域の景観を多数描いているということで、画題に挙がる地名は「ああ、ここ」と言ったふう。
ですが、昭和初期から60年ほど、長く住まううちには多摩の景観も大きく変わっていったことは
倉田自身も書き残しているようですが、まあ、そのとおりなのでしょうなあ。
そんな郷土感といいますか、そういう見方でもって面白く見ていたわけですが、
同時開催のコレクション展では日本の洋画家による作品を数多く展示しておりまして、
(いささか申し訳ないところながら)実はこちらがたいそう興味深く眺められたものでありまして。
それぞれ画像がありませんので、作家ごとにそれらしい作品イメージを
思い浮かべていただくしかないのが残念なところではありますけれど、
まずもっては小磯良平の「腰を掛ける女」、これには展示室を巡って直して何度も目をとめたものです。
小磯作品でよく知られるのはバレエを題材にしたものであるだけに、
思い出すのはドガということになりますが、ここで単色で塗りつぶした背景の中に置かれた女性像は
むしろマネを思わせるものでありました。足元の、さささっとした筆運びなどもマネらしいと言いますか。
深い鑑賞眼があるわけではありませんので、
個人的に肖像画に向き合って唸ってしまうケースは少ないところながら、これは「う~む」と。
小ぶりな作品だけに家に飾ってふと眺めることを想像すると、それだけで豊かな気分になったものです。
もう一つの「おお!」は、中川一政の「ひまわり」ですなあ。
昨年、真鶴に訪ねた中川一政美術館でもそのダイナミックな筆による作品を数多見てきましたけれど、
そのときの薔薇の絵もダイナミックでしたが、この「ひまわり」もまた。躍動に溢れておりますよ。
そして、坂本繁二郎「静物(リンゴ)」の色合いにも惹かれます。
坂本繁二郎の作品はアーティゾン美術館(かつてのブリヂストン美術館)や東京国立近代美術館で、
その独特な淡彩による馬の絵を見ることが出来ますけれど、
あまり多作でなかったのか、遇する機会は少ないような。
それでも一度見たら忘れらない色合いは、ここに見るリンゴにも生きておりましたですよ。
他では、中村研一の「裸婦」も良し。この人も多摩ゆかりの作家でありましょう。
小金井市には中村研一記念はけの森美術館がありますのでね。またそのうち行ってみましょう。
椿貞雄はあまり作品を知るところではなかったですが、壊れた?アパートのような建物を描いた「風景」、
これにはしばし足を止めたり。岸田劉生の影響が大きいということながら、この絵に限っては
多少の色味とその雰囲気から岡鹿之助が描く世界を見るような気がしたものでありますよ。
最後にひとつ、須田国太郎の「能」、これはデッサンですな。鉛筆の走り書き。
ではありますが、色紙にさらさらっと書いて落款でしょうか、赤いハンコが隅に押してあると、
もはや立派な作品になる。そんなことに今さらながら感心させられるのでありました。
と、すっかり倉田三郎そっちのけになってますが、やはり折に触れて美術館に足を運べば
そのときそのときの感懐や思い巡らしがあるというものですね。籠ってばかりでは得られない…。