全くもってまるまる周回遅れになりますが、
先週放送のTV朝日「題名のない音楽会」を見ていて思わぬ発見があったのですなあ。
メロディーに聞き覚えがあるものの、曲名が分からない。
そんなとき、歌詞がある場合にはだらだらと歌詞をネット検索すればだいたいヒットしますね。
ですが曲だけの場合にはそうもいかないものの、そのメロディーを口ずさむなり、口笛で吹くなりして
動画でUPすれば誰かが応えてくれる…という探し方もあるそうな。
まあ、そこまでするかどうかは知りたさの強弱によるわけですが…。
とまれ、先の「題名のない音楽会」は「意外と知らない!?クラリネットがわかる休日」というもの。
クラシック、ジャズ、そして元チンドン屋という3人のクラリネット奏者が登場したわけですが、
それなりに興味深い内容でもありましたですね。
ジャズ奏者にとって当たり前の奏法がクラシックのプロ奏者でもうまくいかないとか。
そんな番組の中で元チンドン屋さんが、とある曲のさわりを吹き、
曲名を「美しき天然」であると紹介されたのですなあ。
「美しき天然」という曲、どんなメロディーを想像されましょうか。
実のところ「おお、この曲が!?」と思ったそのメロディーはまさにチンドン屋の定番曲であるとともに、
見世物小屋の呼び込みの裏で必ず流れてくるものだったのでありますよ。
♪タ~ラ、ラララ、ターララ~、ララララ~ラ~…といって分かっていただけようもないでしょうけれど。
しかしまあ、初めて曲名が分かったことに「おお!」と思う一方で、
その「美しき天然」という曲名であることそのものに驚きを禁じなかったわけで、
調べてみればちゃあんと歌詞のある唱歌だったとは、さらなる驚きです。
♪春は桜のあや衣、秋は紅葉の唐錦、夏は涼しき月の絹、冬は真白き雪の布…。
例えば2番の歌詞にはこんなフレーズが出てきますように、
日本の自然の美しさをさまざまに織り込んだ歌詞は武島羽衣の作詞、
♪春のうららの隅田川~で知られる、滝廉太郎作曲「花」の歌詞を書いた人ですな。
かように抒情的な歌詞と、チンドン屋で思い浮かぶ
いささかすっとんきょうなクラリネットのメロディーとがどうにも嚙み合わない気がしたのですが、
試しにYoutubeで芹洋子の端正な歌唱を聴いてみますと、なるほど唱歌と納得してしまう。
とても同じ曲とは思われないほどです。
元はそんな唱歌がなぜにチンドン屋のメロディーと化してしまったかとなれば、
これは当時(1902年、明治35年の教科書に採用)、それだけ知られた曲であったからでしょうか。
チンドン屋は一般大衆の耳目を集める必要がありますから当然に、
奏でる音楽が広く知られたものであった方がいいわけでしょうし。
「名月赤城山」や「野崎小唄」というヒット曲(なぜかいずれも東海林太郎)が
取り入れられたのも同じ理由でしょうけれど、それ以上にチンドン屋の定番曲がもうひとつありましたな。
「美しき天然」が哀調を帯びたふうであるのと反対に、もうひとつ「千鳥」という曲はなかなか軽快、
なんとなく景気の良さではこちらの方に軍配があがりそうですなあ。
ともあれ、すっかり過去のものとなったと思しきチンドン屋ですけれど、
全日本チンドンコンクールという催しは1955年以来今に至るも継続しているのだそうな。
あいにくとコロナ禍によって、2020年、2021年と続けて中止されてはいるようですが。
まあ、こうしたことを通じてかかる大衆芸能は受け継がれているものの、
本来の広告宣伝業者として生業を立てることを考えた場合には極めて難しいご時世かと。
今、町中で見かけたすれば、年齢層によって「お、懐かしい」となったり、
「なんだ、あれ」となったり、目立つことは目立つでしょうけれど。
この後はむしろアマチュアのバンド活動の一つとして生き残っていくのかもしれませんですね。