先に映画「ネクスト・ゴール!」を見ましたときに、

「オリンピックは参加することに意義がある」てな言葉を思い出していたわけですが、

言うまでなくこれはアマチュア・スポーツの話でありますよね。

 

世の中にはプロ・スポーツという、その競技を行うことで生計を立てている人たちもいるわけで、

そういう人たち(と、それを取り巻く人たち)には「結果はともかく、出場に至る過程の努力が大切です」などと

言えたものではない。本人よりも、取り巻く人たちから物を投げらそうな気がしますものね(笑)。

 

ですが、結果にこだわるあまり、過程での努力が本来あってはならない方向に行ってしまっても

自己の目的に対するあり方として肯定できてしまうことがあるのですなあ。

「不正のトライアングル」に見る、まさに「正当化」の心理が働いてしまっているのでしょう。

 

「勝利への底なしの欲望」のあまり「疑惑のチャンピオン」となった男の物語の原題は「THE PROGRAM」、

組織的ドーピング隠しのプログラムとも言えましょうか。当事者たちにとっては

勝利に結びつく肉体改造プログラムてなつもりで正当化できていたのかもしれませんけれど。

 

 

しかしまあ、「ツール・ド・フランス」とは自転車競技の大きな大会として知られるものの、

とんでもなく過酷なレースだったのですなあ。

 

Wikipediaには「毎年7月に23日間の日程で行われるステージレースで

距離にして3300km前後、高低差2000m以上という起伏に富んだコースを走り抜く」とありまして、

そう今日距離はもとより、この高低差を自転車で登る(下る方は鳥にでもなった心地でしょうけれど)のは

体力も心肺機能も尋常ならざる領域にある人たちが参加していることでありましょう。

 

余談ながら、以前ちらりと見たTV東京「Youは何しに日本へ?」だったか、

成田空港に降り立ったスペイン人がそそくさと持参の自転車を組み立て、空港を出発。

なんとその日のうちに日光いろは坂を自転車で登ってしまった…という場面に遭遇したのでありますよ。

 

「いったいなんだ?!この人?」と思ったものですが、

ヨーロッパの自転車好きはツール・ド・フランスなどの競技に親しみ、

登り坂が無くては自転車に乗る楽しみがないてなふうに考えてもいるようで、

やはり以前に全日空の機内誌でベルギーの自転車好きのお話として載っておりましたっけ。

 

ところで、世の中には(本来目的はスポーツ選手の利用を想定するものではないにせよ)

一時的に心肺機能を高める作用のある薬が存在するのですなあ。いかにもドーピングを誘発しそうな。

 

とまれ、1999年からツール・ド・フランス7連覇という大記録を打ち立てたのがランス・アームストロング、

あまりの強さから常にドーピング疑惑が付いて回るも、癌から奇跡のカムバックを果たしたこと、

誰もがヒーローには負けない存在でいてほしいと思われていることなどなど、本人の側ばかりか、

周囲のひとたち、観客までもが「疑惑は疑惑でしかない」としてランスに声援を送るのですよね。

 

裏では実に組織だったドーピングの隠蔽工作が行われており、

映画ではこのあたりを詳らかに描き出していますけれど、先に触れた「正当化」は

完全に薬剤使用に対する抵抗感を失わせてしまったいるのであるなあと。

 

ただ、スパイ映画で取り上げられるような諜報工作とは違って、

ドーピング隠しといってもあまりに詰めが甘いような。それだけにほころびがあれば、

いかようにも証言者が現れて、事は露見するとは考えてみなかったのでしょうかね。

それだけ、世の中に必要とされているヒーローと思い込んでもいたのでしょう。

 

結果的にはツール・ド・フランス7連覇のタイトルは剥奪され、

自転車競技の世界では永久追放となるランスですけれど、彼は氷山の一角なのかもしれませんですね。

 

ヒーローを貶めるのは根も葉もない誹謗中傷であるてな思いが、広く一般大衆にあるときには

マスコミも叩きにくく見て見ぬふりをしてしまうという、まさにそういう姿も映画には描かれておりますが、

「勝利こそ全て」といった強い思いが全てを正当化してしまう可能性がプロスポーツ選手の側にあるとして、

結果的にもせよ、それに声援を送る側も加担してしまっているのかもしれませんですねえ…。