「これ、見たことないなあ…」と思いましたら、どうやら劇場未公開作品だったようで。

トム・セレック主演の、西部劇にしては新しい1990年制作、「ブラッディ・ガン」という一本ですが、

CS放送のWOWOWプラスで放送されたのを見てみたのでありますよ。

 

 

WOWOWプラスでのあらすじ紹介では、こんなお話だということで。

大牧場主のマーストン(アラン・リックマン)が腕の立つガンマンを探していると聞きつけたマシュー・クイグリー(トム・セレック)は、約3か月をかけて、アメリカからオーストラリアへとやって来た。マシューは長距離射撃の名手であり、マーストンの下で、家畜に害を及ぼす野生の犬の駆除をすることになっていた。ところがマーストンの本当の目的が、原住民のアボリジニ狩りだと知り、マシューは取引を拒否する。仕事を断ったことで、マシューはマーストンに命を狙われることになり…。

西部劇、ウェスタンという触れ込みではありますが、異色も異色、何しろ舞台はオーストラリア西部なのですから。

原題の「Quigley down under」は「クイグリー、オーストラリアへ行く」てな意味になりましょうけれど、

このままでは邦題として如何ともしがたいと考えた…にしても、「ブラッディ・ガン」とは取りあえず付けてみました的。

 

とまあ、それはともかくとして、1960年代には終焉を迎えた西部劇の全盛は、

やはり先住民を一方的に悪者扱いした勧善懲悪として描けなくなった時代背景によるものでしょうか。

その後にも、手を変え品を変え、異色作と思しき西部劇は作られますが、オーストラリアまで出張っていくとは。

 

しかも、アメリカ先住民を取り上げにくいとはいえ、アボリジニを登場させようとはなんともすごい発想ですなあ。

もっとも、アメリカからやっていたガンマンはアボリジニを守る側に立つわけで、

ここでの悪者はイギリスから金儲けにやってきた連中であるのですなあ。

 

パーツのどこにだれを置くかはともかくとして、基本的な枠組みはいわゆる西部劇の定型を

ある意味、見事に踏まえて作られてはいますですね。

どこからともなくやって来る流れ者、悪いやつらのせいで苦境に立たされた人々を救ってまた去って行く…といった。

 

そんな西部劇らしさを感じつつ見ていたわけですが、ふと気が付くと「これって?」と思い至ることに。

西部開拓が進んだアメリカはやがてフロンティアが無くなってしまい、さらなるフロンティアを求めて?

世界に出ていきますな。日本に黒船がやってきたのも、そんな流れでもあるような。

 

そんなふうに世界に出ていったアメリカはやがて(もっぱら自らの信じるところで良しとすることを求める)

「世界の警察官」たる立場に立つ(自らを任じている?)ことになりますけれど、そうしたアメリカのありようを

「どうだ、素晴らしいだろう」と訴えかける意味合いが、実はこの映画で感じ取れてしまうのでありますよ。

先に「これって?」と思い至った由縁です。

 

折しもこの映画が作られた1990年は湾岸戦争のあった年でありますね。

イラクのクウェート侵攻に対して派遣されたのは「多国籍軍」ですけれど、

実際にはほぼほぼ米軍であったようですから、どこまでも悪い奴をやっつけに出かける姿は

映画にも共通するように思えるわけなのでありますよ(映画では目的ありきではありませんでしたが)。

 

かつての西部劇のように先住民を悪者として描くことが暗黙の了解である時代もあり、

映画にはその時代背景が時にあらわに、時にひそやかに示されるわけですね。

昔のディズニー映画でも、たくましいヒーローとかよわきヒロインの像は、

当時のアメリカの理想的な?男性像・女性像でもあったわけで。

 

ま、そんな深読みをしたところではありますけれど、

昔ながらの西部劇のフォーマットに擬えたシークエンスを探して楽しむというのも、

この映画のお楽しみのひとつではありますね。ただ、それだけでは…というお話なのではありました。