山梨県北杜市の増富温泉はラジウム泉、放射能泉であると申しましたですが、
「ラドンを10億分の3キュリー以上含むもの」がラジウム泉であるということなのですなあ。
キュリーという単位はラジウムを発見したキュリー夫妻の名前からとられておりますが、
ここに登場「ラドン」と「ラジウム」の関係やいかに?ということになりますなあ。
世にラジウム温泉のほかにラドン温泉という言い方もありますので、
両者は似て非なるものであるかとも思うところながら、実体としては同じもののようですなあ。
理屈は量子力学をかじらなくてはならんようですから端折るとして、
ラジウムがアルファ崩壊して放出される気体がラドンだということですので、
ラジウム温泉、ラドン温泉ともに療養目的に関わるのは、ひとえに「ラドン」なのだということで。
ただし、決定的(というよう一般的な用語法としてでしょうか)な違いは天然ラジウムに由来するものをラジウム温泉、
ラドン発生装置によりラドンが供給されているものをラドン温泉と言っているようですなあ。
ともあれ、ラドンを体に取り込むことになるわけですけれど、
その効果のほどは、宿の案内によりますと、このようなことになるようですね。
強力な放射線は危険でも、微量の放射線であれば体内細胞が刺激され、本来すべての動物が持っている自然治癒能力(自己防衛、再生、調整能力など)のスイッチが入り、免疫機能が向上します。
このあたりのことが、先にも触れました「低線量被曝は元気になる」てな話が出たことと繋がるのでありましょう。
放射線といいますと、なにやら人工物、つまりは自然界に無い異物とも思えてしまうところながら、
実は微小ながらも放射線には取り巻かれており、普段は生物が生きていくのとバランスが取れているのでしょう。
それが大量に放射されるということは基本的には人工的なものとなりましょうけれど、
微妙な匙加減で、例えばほどほどにラドンを体内に取り込むと、あれこれの体の働きが活性化するてなことのようで。
と、そんなラドンは空気よりも重い気体であるが故に「水面から約10cmのあたりに多く集ま」るので、
浴槽では静かにして波立たせない方がよろしいという、入浴心得になってくるのですな。
静かに入るというのはいいとして、ラドンはまた「地下水の温度が低いほど容易に溶け込む」性質であることから、
湯がゆるいのがラジウム泉の特徴でもあるそうなのですねえ。
宿にもいくつか異なる源泉から引かれた湯舟がありましたけれど、単に体を温めるための41度の沸かし湯に入り、
浴槽によってさまざまに19度から33度くらいのラジウム泉(さぞやラドンがたくさんなのでしょう)に浸かることを
繰り返し行うというのが、「正しい」入浴方法であるそうな。もちろん、湯治目的としてですが。
というふうに、理屈も効能もなんとなく分かった気になりつつも、
温泉を訪ねて「う~ん、いい湯だあ」と汗ばみながら浸かるというイメージからは程遠い世界であることに
予備知識が追い付いておりませんでしたので、いささか意表を突かれたところも。「いや~、冷た…」と。
適切な入浴法に従い、これを繰り返すことで「霊験あらたか」的なる回復を見せる場合が多くあり、
宿にはたくさんの御礼状が寄せられておりましたよ。湯治の効能を疑ってかかりはしませんけれど、
きっとプラシーボ効果もあったろうなあと。プラシーボにも体の自律的な働きを促す要素はありましょうし。
韮崎駅まで戻るバスの車中、乗客がほかにいなかったことでもあり、運転手さんが話かけてきたですが、
「増富は冬に行くところじゃないね」と、きっぱり。もちろん、湯治客は別でしょうけれど。
そして、「夏はいいよ、温水プールだと思えば」とも。夏場がいい温泉地とはあまり聞きませんが、
お試しで出かけるには夏がいい。激しく同意してしまったものでありましたよ。