真鶴町立中川一政美術館をあとに、もそっと木立に囲まれた道を上り下りしながら進みますと、
真鶴岬突端の崖上に到達。ここには「ケープ真鶴」なる施設がありまして。

 

 

 

海を見渡せるレストランが入っているのですが、さらに見晴らしがよいであろう2階には

なぜか「遠藤貝類博物館」という、貝専門の珍しい博物館があるのですなあ。

その珍しさに釣られて入ってみたのでありますよ。

 

 

ちなみに博物館に名前を残す遠藤晴雄さんとは、同館HPによりますれば

地元真鶴出身で「幼少の頃から海の自然や生物に触れて育ち」、やがて「貝類の魅力にさらに強く惹かれるようになり、

本格的に貝類収集をはじめ」、公立小中学校の理科の先生を務めながら、「91歳で亡くなるまでには、

海外の貝類の収集にも注力し」たという人物。分野こそ違いますけれど、植物に情熱を注いだ牧野富太郎を思い出しますなあ。

 

そのコレクションを自宅に展示していたのが、この博物館の元となっているそうですが、

実に実にたくさんの貝が展示されておりましたですよ。真鶴で見つかるものだけでもかようにあるわけで。

 

 

ところで(いまさらですが)、貝類は軟体動物の仲間であるということですね。

固い殻こそが貝の特徴と思うところながら、その中にある本体は確かに柔らかい。

で、軟体動物の中にあって、「炭酸カルシウムを主な成分とする貝殻を生活史の一部でもつもの」が

貝類であるということなのですなあ。

 

どうも成体としてある姿が貝殻に覆われているものこそ貝であると思いがちな気がしますけれど、

「生活史の一部」にでも貝殻らしきものが関われば貝なのだとなれば、結果的に成体として見かける段階で

すでに貝殻とは無縁という種類もあるわけですね。ですので(といっても、得心が行っているわけではないのですが)

「ウミウシやアメフラシ、ナメクジ、クリオネなどは目立った貝殻が見られませんが、貝類の仲間です」と言われても。

特に「クリオネは貝なのであったか」と思ったりしたものです。

 

そんな具合ですので、たくさんの貝の標本が並ぶ中、つい目を止めてしまうのは「どうしてこんな形?」というものに。

なぜかしら、細長いものばかりになってしまいましたが、珍しいと思ったその一部をご覧くださいまし。

 

 

左手前にありますのが「トゲコケミミズガイ」、これはブラジルで採れたもののようですね。

ミミズのよう、と言われればそうかなと思うところながら、まあ、ぐるぐる巻きになってしまったチュロスのような見た目です。

これだけを見るとなんとも妙な形だなと思うところながら、いわゆる巻貝がきれいな三角錐のような形を造るのに対して、

何かしらの環境が巻いていく成長過程をほどけた形にしてしまったのであるかなとも思ったりしたものです。

 

 

こちらはその名も「エントツガイ」とはいかにもでしょうけれど、しかしてその実態はなんと!二枚貝であるというのですなあ。

このエントツをどう見たら二枚貝であるかと思うのは正直なところでして、エントツ状のこの物体はいわゆる貝殻とも言えないようで。

フナクイムシの仲間であるというエントツガイの「幼貝は沈木や沈船に穴を開け、木を食べながら穴の周りを石灰質でコーティングして

煙突状の筒を作り成長」するということで、貝殻というより巣穴と考えた方がいいのかもしれません。

 

 

真ん中に見えているのは「ツツガキ」、またしても細長い形で二枚貝だということになりますと、

エントツガイに近い?と思うところながら、こちらは根元のところにオリジンは二枚貝ですよと示すような痕跡が見られますなあ。

やはりフナクイムシとは異なるようで。

 

 

最後にクローズアップしますには「カイロウドウケツ」というもの。

これは海綿類ということで、貝類とは違うようですね。当然にして生態も異なるわけですが、

「ガラス状の骨片がレースのように網目状に発達する」結果が、このような見た目を呈するのですな。

それにしても「カイロウドウケツ」は、漢字では故事成語の「偕老同穴」が当てられているのですけれど、

つながりは「?」です。英語では「Venus' Flower Basket」と呼ばれるようでして、その方がいかにも感ありますね。

 

 

ま、ヴィーナスといえばこちらの貝の方がお馴染みかもしれませんが。

てなことで、たぁくさんの展示からほんの少しばかりに触れてきましたですが、

そもそも貝に興味があったわけでなし、そこに博物館があったから寄ってみたというだけであるものの、

訪ねてみればあれこれ興味深い感じたりするもので。

予め興味があるという関係の場所を訪ねるばかりでは得られないものもありますなあ。