…ということで栃木県那珂川町の、日本の美しい村連合に加盟する小砂で、
その里山に分け入って行ったのですけれど、訪ねたのは小砂焼の窯元でも芸術の森でもなくして、
こちらなのでありますよ。
「雑木林やくさっぱら、桑畑、杉林、檜林などの里山のフィールドと、えほんの丘農場があ」るという「えほんの丘」、
その中核となる施設が「いわむらかずお絵本の丘美術館」なのでありました。
童話作家として絵と物語の両方を手掛けるいわむらかずおですけれど、
最も知られているのは「14ひきシリーズ」でしょうかね。
大家族のねずみ一家が森の中で暮らす日常を精細な絵で描き出している作品ですな。
これはすでに終了した展覧会のフライヤーですけれど、「14ひきシリーズ」でも
同様の精細さで自然を描き出している。ひとつの特徴でもありましょうなあ。
作者は東京生まれながらも、幼い頃に秋田での疎開生活を送ったからか、
自然貧乏(自然を渇望するようなところ)でもあったようで、一端は多摩にそれを求めるも、
やっぱり開発の手は個々にも及んだせいで、栃木県の益子(焼きもので有名な町ですな)に移住、
ここで培った栃木とのつながりで那珂川町に美術館が設けられることにもなったようでありますよ。
とまれ、訪ねたときの展示タイトルは「いわむらかずお絵本づくり50年展」というものでして、
「14ひきシリーズ」を始めとした代表作の絵本そのものがずらり、
それぞれの原画が抜粋で展示されておりました。
時に絵本を手に取りながら原画をみつめてきましたけれど、
ふと気づいてみれば自然を精細に描く、というばかりではない絵柄の本もあったのですなあ。
「かんがえるかえるくん」のシリーズ、これもまた、いわむらかずお作であったとは
気付いておりませなんだ…。
以前手に取って、ほのぼのとした味わいとぽつりぽつりと入ったセリフに
おだやかな気分になったものです。ですが、ともすると哲学的?とも思われる深遠さが
かんがえるかえるくんから提示されることもあったような。
はて、子どもにも通じてるのかなとも思ったりするところですが、
子どもは子どもなりの受け止め方があって、大人感覚では計り知れないところがありましょう。
絵の方でいえば、「14ひきシリーズ」ほかに見られる精細描写も、
子どもにはもっとシンプルな方がと思ったりするも、あれはあれでやはり受け止め方がある。
だからこその人気シリーズではあるわけで、大人の思うところで絵本を選別しても、
実は子どもにフィットしないことがあるな…と思い返したりしたのでありますよ。
ところで展示を見ていて「!」と手に取ったのが『もりのピアノ』という一冊でありました。
お話としては「女の子が切り株の前に座ると切り株はピアノに早変わり。動物たちが加わり
紅葉の森はコンサートホールになりました…」というよいうなものですけれど、
「これって、『ピアノの森』にインスピレーションを与えたりしたのでは…」と思ったわけで。
アニメでしか見ていませんが、『ピアノの森』でやおらピアノが森に置いてあることに「?」と思い、
説明はされていてもやはり「う~む」だったのですけれど(全体的には、まあ、面白く見ましたが)、
いわむらかずお作『もりのピアノ』では、森の中の大きな切り株がピアノに見立てられるのですな。
子どもならではの想像力を思わせる分、「さもありなむ」と思ったものでありますよ。
先にも触れましたように、大人目線で絵本を選ぶような感覚とは違って、
子ども目線を想像することのできた作者であるかなと、美術館を訪ねて考えたのでありました。