先に訪ねた鹿沼や大谷は栃木県の真ん中へんだったのですけれど、
その晩の泊りは同じ県内でも50Kmほども北東へ向かった、もはや茨城県と隣接する那珂川町、
そこに点在する馬頭温泉郷のひとつである小砂(こいさご)温泉「美玉の湯」でありました。
一軒宿の天然ラドン温泉にゆったり浸かって一夜を過ごしたですが、
明けて翌朝、宿の前の道端にある看板に目がとまったのですなあ。
見えにくいとは思いますが、「ようこそ小砂へ」と書かれた下にカッコ書きで「日本で最も美しい村」と。
ずいぶん大胆な宣言であるなと思ったところながら、実際には「日本で最も美しい村」連合というものがあり、
栃木県那珂川町小砂はそのひとつとして加盟しているのであるとか。
「フランスの最も美しい村」協会というのがあって、これに入っている村々は
写真を見ればそれぞれに「う~む、行ってみたい気がする」とそそられたりするところでありますね。
他の国ではイタリア、ベルギー・ワロン地方、カナダ・ケベック州に同様の協会があって、
日本の連合も含めて「世界で最も美しい村」連合が作られているのだということです。
ヨーロッパやカナダとは風土が異なるものの、確かに日本でも「美しい村」と思われる場所もあろうとは思います。
ですが(こういっては何ですけれど)、今回の宿の周囲を見まわす限りにおいては
「よくある里山と田園風景」という気がするばかりなのですなあ(だもんで、カメラを向けることもなく…)。
しかしながら、よおく考えてみると「よくある里山と田園風景」を保持していくこと自体が、
実は難しいことだったりするのかもしれませんですね。そして、連合への加盟条件には景観ともども
文化的側面への取り組みが評価されるようでもあります。
そこで、改めて「日本で最も美しい村」連合のリーフレット(宿においてあるのを発見しました)を見れば
小砂の紹介文はこのように書かれていたのでありますよ。
焼き物の表面に金をまぶしたように見えることから「金結晶」と名付けられた「小砂焼」。断面が菊の花びらのように美しい「菊炭」は、里山に伝わる伝統の技だ。「環境に配慮し環境を生かした芸術祭」開催を機に「陶芸の里」の伝統と若い芸術家が集う「芸術の森」は注目されつつある。
どうやら小砂の場合は景観もさりながら、文化的な面に注目されているかもしれませんですね。
たぶん「美しい村」に加盟できることは観光的に有利に働くことでしょう。
とはいえ、(世界遺産登録などとも同様に)開発には大きな制限が生ずることもまた間違い無い。
小さな村(加盟条件には「人口が概ね1万人以下であること」というのもあります)であれば尚のこと、
地域経済が立ち行くのかということが当然にして気に掛かるわけで、こういう地域の場合、観光に頼むところが多くなり、
ついつい観光客の気を引く何らかの開発をしたくなりもするのではなかろうかと。
それを大がかりな開発に頼るでなく、その地域での自立を図るのは簡単なことではないであろうところで、
敢えて「日本の美しい村」連合に加盟するというのは、ある意味、冒険なのかもしれませんですね。
リーフレットの加盟リストを眺めてみれば、関東地方に栃木では小砂だけ、群馬県に3カ所のみ。
東北地方でも岩手や宮城にはひとつもないというのは、やはり極端に舵を切れないもどかしさが
きっとあるのだろうと想像するところです。観光と開発との兼ね合いの難しさを感じるところでありますね。
…ということで、旅先でのお話からずいぶん逸れてしまった思い巡らしになってしまいましたけれど、
そんなことも出かけてみて初めて考えてみることでもあろうかと思ったりするのでありました。
ま、今回は小砂の工芸や文化を伝える窯元や「芸術の森」には立ち寄りませんでしたが、
上の案内板のところから里山を上った奥へと向かい、とある施設を訪ねることに。
次はそのお話ということになってまいります。