このところよく見かける言葉に「中止」がありますね。公演中止とか開催中止とかばかりですので。
ですが、あまりに見かけるものですから、普段スルーしていたことに改めてひっかかりを覚えたりする。
なんとなれば、「中止」とは、「中」と「止」から成り立っていますからなあ。
と、また例によって辞書検索をしてみるわけですが、
コトバンクの大辞林第三版の解説にはこのような語釈が載っておりました。
物事を途中で止めること。また、計画していたものを実行する前に取りやめにすること。
なるほど。こうであるから、何かしらの公演、開催が事前に取りやめとなることを
公演中止、開催中止と言って差し支えないのですな。
されど、上の語釈を見ても、「また」でつないであるということは、2種示された意味のうち、
まずは前者であって、まあ、後者に使ってもいいですよ的なニュアンスが感じられようかと。
決して前者と後者が並立の関係にあるようには思えないのでして。
実はここのところがひっかかりの原因であるような。先にも申しましたように「中止」は「中」と「止」で出来ているのですから、
その意に素直に従えば、上の語釈の前者、「物事を途中で止めること」と受け止めることになるのではなろうかと。
例えばですが、「公演中止」という表現を見た時に、
「なんだ、なんだ?何か公演の最中に事件でも起こって中止になったのか?!」ということでもあるかと思えてしまう。
もちろん、前後の文脈をたどえればだいたい間違いようがなく、それが事前の取りやめのことと理解もできるわけですが、
それならそれで日本語の豊富な語彙からすればいくらでも言葉の置き換えは可能なはずであろうにと思ったり。
しかしまあ、公演の中途でも「中止」と言い、公演前でも「中止」と言ってしまえる背景として、
先の辞書とは関係の無い全くの個人的思い巡らしですけれど、本来的には「物事を途中で止めること」であるところが、
何かしらの公演実施に向けたプロセス(実施以前の準備等々)が中止になったことも、
そんな説明めいたことを長々記すのも面倒ですからひと言で「公演中止」と言う慣用が生まれた…てなことでしょうかね。
とまあ、かようなことを書いていて、もうひとつ思い出したことがあります。
最近、「これには、年齢に関わらず応募が可能で…」といった一文に対して、
この「関わらず」は「拘らず」が正しいとの指摘が出されたのでありますよ。
「ん!?」と思って、またしてもネット検索。
「~にもかかわらず」という言い回しは漢語「不拘」に由来することから、
正しくは「拘らず」で、「関わらず」とかあるいは「係わらず」というのは正確ではないとの記載を発見しました。
では上記の例も「年齢に拘らず」がやはり正しいのだな…と思えば、話はそれでおしまいなのですけれど、
やっぱりどうもしっくり来ない気がしてしまい…。待てよ、「にかかわらず」と「にもかかわらず」って、
意味、というかニュアンスが同じであるかな?と。
もともと「年齢に関わらず」で言いたかったことは「年齢に関係無く」ということでありますね。
これを「年齢に拘らず」とすると、「年齢にこだわらず」という意になるような気がするのですよね。
(ちなみに「こだわる」と入力すると「拘る」との変換も表示されますが、これは当て字のようで…)
「関係無く」も「こだわらず」も同じことじゃね?かもしれませんですが、
前者の方は決め事に従って、そこにヒトの判断が介在する必要もないようすと思える一方、
後者の方はそもそも「こだわる」「こだわらない」はヒトの思いが映されているように思える気が。
つまり、後者には何かしら「ヒト」の姿が見え隠れしているように思えてしまうのですよねえ。
こうしたニュアンスの違いをどこまで気に掛けるかは人それぞれかもしれませんし、
また気に掛けたこと自体、本来的な語釈に適っていることなのかどうかも分かりませんけれど、
漢字は一文字そこにあるだけですでに意味を纏っていますから、
なるべくなら違和感を与えない用法で使っていきたいものだなと、
これまた改めて考えたという次第なのでありました。