「男たちは…」(かつてのNHKの人気番組「プロジェクトX」ではありませんが)みたいな
企業の開発物語を扱った映画もままありますなあ。
「陽はまた昇る」と聞けば、「ああ、ヘミングウェイの…」と思ってしまうところながら、
ヘミングウェイの方はもっぱら「日はまた昇る」と書かれるようで、
こちらは日本ビクターによるVHS開発の物語なのでありました。
テレビ番組を録画することができる。
若い方々ならもはや当たり前のことと思うであろうことが実際に一般家庭でできるようになったのは
画期的なことであったなあと思い出されるのですよね。
ソニーの家庭用VTR・ベータマックスが発売されたのは1975年、そんな昔ではない…と思いかけたら、
すでに45年も前の話になってしまっていましたか。十分に昔話ですかね(笑)。
ベータ発売に遅れることおよそ1年半、ビクターがVHSを出します。
この「VHS」という名称が「ビデオ・ホーム・システム」の頭文字と並べたものであるとは
映画を見て初めて知りましたですが、商品名としてはベータ、ベータマックスの方が圧倒的に呼びやすいものの、
その後のビデオ戦争では結局のところVHSが勝利して、当初ベータ機を出していた東芝がVHSを売り始めたときには
「ああ、終わったな」と思ったものでありますよ。
単にソニー対ビクターという戦いではおよそビクター側に勝ち目はなさそうなものの、
映画の中で描かれていますように、家電メーカー各社がベータに与するか、VHSにのるのか、
このあたりの駆け引きがポイントで、松下(現パナソニック)が(というより、松下幸之助が?)
VHSに目をかけたことで潮目が変わった…ということなんですが、松下ってそんなに影響力があったのですなあ。
なにせ自宅の中には、いわゆるナショナル製品はほとんど無いものですから。
それはともかく、画期的商品と思えたホームビデオ・VHSもやがて次世代の録画媒体に取って代わられるわけですが、
開発したビクターがVHS生産を終わりにしたのが2008年、およそ30年にわたって親しまれたものが
すっかり姿を消していきました。
…とここまで思い至ったときに、映画に見たような悪戦苦闘であった技術開発も用済みになってしまったのであるか、
と思いかけたところながら、おそらくはここで培われた技術というのもまた後に別の形で生きたりするであろうかと。
つまり、生産終了ですべてが水泡に帰すわけではないのでしょうなあ、きっと。
過去の研究開発があって、その上にどんどんどんどんと積み重なっていく。
いったん用済みと思えたものが新たな開発で役に立ったりする場面もおそらくはあることでしょう。
ですから、VHSという製品の時代が終わったことを開発者たちは嘆くことは無く、
さらに前へ前へ(その前へというありようには良し悪しはあるものとも思いますけれど)と
研究を続けていくのでありましょう。結果だけでなく、プロセスをも大事にしていることでしょうから。
そんなことを考えておりますと、はたと医薬品などに関しても同じことが言えるのでもあろうかと思ったり。
新型ウイルスなるものが現れるたび、これまでの積み重ねの上に立ってさらに引き続く研究開発が行われ、
その過程はまさに悪戦苦闘の連続かもしれませんけれど、いつか成果は現れる。
その「いつか」が近からんことを切に願う今日この頃ではありますね。