ジュール・ヴェルヌの「80日間世界一周」。
映画にすれば(と、現に映画化されてますけれど)世界のあちこちにロケした映像もふんだんに
アクションたっぷりの大冒険に仕立てられるわけですけれど、これを舞台でやったらば…。
といって、ヴェルヌの「80日間」そのものを舞台化したものではなくして、この小説に触発されて
80日以内に世界一周してくることになった二人の女性の話でありますよ。題して
「Around the world within 80days 〜80日間以内!ネリー&リズ 冒険は西から東から?〜」。
池袋のシアター・グリーンで見てまいりました。
台本作りに参考としたかどうかは分かりませんけれど、
個人的には以前読んだ「ヴェルヌの八十日間世界一周に挑む」 で二人の冒険譚に接しており、
それだけにどんな舞台になるのかと飛びついた次第。
「世界一周は80日かからずに可能」と計算した「ワールド」紙の記者ネリー・ブライは
ニューヨークから大西洋航路の船に乗り、東回りの世界一周に乗り出します。
一方、雑誌「コスモポリタン」はこの企画を耳にするや、
自社のライター、エリザベス・ビズランドを無理やり大陸横断鉄道に乗せてしまい、
サンフランシスコから太平洋を越える西回り世界一周に送り出すのですね。
自らの発案だけに企画を成功に導きたい行動派のネリーと
全く意図せず望みもしない旅に出ることになってしまった穏やかなお嬢さまのエリザベス。
二人はさまざまな事物に触れて、その反応の違いなども先の本からは感じられるところながら、
舞台ではそのあたり、相当に割愛ということに(まあ、時間の制約がありますから)。
言い忘れましたが、ネリーとエリザベスの世界一周は「実話に基づく」という話なのですよね。
しかしながら、作劇にあたって最大の改変はそれぞれ一人旅であったネリーとエリザベスに
架空の伴走者を設定したこと。しかも、彼女らと同年代の女性ふたりが
現代からタイムスリップしたというような具合なのですなあ。
この芝居にこの要素はとても大きな部分で、ネリーとエリザベスの世界一周を入れ子として
その外枠の構成と大きく関わっている。それは分かるところですが、ちと作り込み過ぎな気も。
(ネタバレ的ですが)最後にH.G.ウェルズを出してまとめることにこだわりがあったのかもです。
とはいえ、先にも言いましたように時間的な制約がある中では詳述できない二人の旅を
伴走者との会話で多少なりとも補うという側面はあったように思いますので、
決して否定はできない状況設定ではあるのですけれど。
と、そもどんな舞台になるのかという期待の点では、
ちょいと前に「一銭陶貨」 という芝居を見たときにも思い巡らしたように
芝居小屋(今回はまさにそのような場所)という非常に制限的な空間の中で
どれだけ世界の広がりを、時空の飛び越えを見る側に想像させるかという挑戦が
非常に興味深いなと思うからこそなのですよね。
世界一周するというのに背景は最初から最後まで全く変わらない。
にも関わらず、見ている側はネリーと、そしてエリザベスとともに
世界を巡ったような気にもさせられる、なんとなくですけどね(笑)。
そうしたステージ・マジックを今回も楽しんできたのでありますよ。
そうそう、この世界一周譚と直接に関わるものではありませんのち、余談として。
エリザベスが太平洋を渡って日本に近づいたとき、
海の彼方に富士山が見えたことに心震わす場面が出てきます。
この場面が、ラフカディオ・ハーン が日本にたどり着く際に
富士山を見て書き残したこととかぶってくるなあと思ったのですよね。
エリザベス・ビズランドはかつてニューオリンズ時代のハーンと同僚だったことがあり、
後のハーンの日本行きには、この世界一周過程での日本での経験・印象が
相当に影響を与えているらしくもある。
そんなことに思い至ると、エリザベスとラフカディオを軸にした話なんかも
芝居にできるような気もしたものでありますよ。それこそ余談ですが。