ドイツには「オスタルギー」という言葉があるそうなのですね。

「東」を意味する「Ost」と「Nostalgie」(ノスタルジーの意ですな)」が結びついた造語、

要するに「懐かしや東ドイツ」的なるものということになりましょうか。


「壁」が崩壊した1989年のクリスマス、ベルリンでは第九 の演奏会が開かれましたですな。

このとき「歓喜に寄す(an die Freude)」の「フロイデ」の部分が

「フライハイト」(自由)に置きかえて歌われたといいます。

それほどに東西分断の壁が崩されたことは「自由」という実感に繋がっていたのかもですね。


さりながら、日本で昭和を懐かしがる傾向があったり、

ともすると明治150年ということもあって明治をやたら持ち上げたりすることを持ち出すのは

適当ではないのかもしれませんですが、どうしても過ぎた日を懐かしむという傾向が

ヒトにはあるのかもしれませんなあ。


よくよく考えれば大きな苦難を伴った時代であっても、

「のど元過ぎれば熱さ忘れる」てなことわざがありますように

懐かしさばかりが思い出されるのでしょうか。

もっとも個人のレベルであれば、思い出したくもない部分には蓋をして、

「いいこともあったなあ」と遠い目をする方がいいですものね。


とまれ、そうしたことがドイツにもあるようでして、東ドイツであった時代にも

(どれほどであるかは別として)今になってみれば懐かしいと思えることがあったということかと。


シュプレー川の川岸にはDDR博物館という施設がありまして、

東ドイツとはいったい国であったかを展示解説しているという。

まあ、ここのような博物館は郷愁というよりは歴史の記憶に類することでしょうけれど、

ベルリンの町なかでちらちら見かけたDDRの香りを

ほんの少々ながらここに残しておこうかと思う次第です。


ベルリンのテレビ塔


まずはなんといってもこれですね。ベルリンのテレビ塔です。

竣工当時の高さ365mは(東京タワーよりやや高いくらいですが)

ヨーロッパでは指折りの高層建築物で、それは今でも同様とのこと。


それだけにベルリンにいて、どこの街角でもひょいと見上げると

その姿が視野に入ってくるという、好むと好まざるとに関わらずです。


それは東ドイツの国威を示すランドマークでもあったからでしょうけれど、

それにしてもこの形、ベルリンという町には似合っているのでありましょうか…。


形、とりわけ上部にある球体のようすからして、

かつて東西世界で競った宇宙開発競争での東側、ソ連の人工衛星スプートニクあたりを

思い出してしまうのですよね(一方で、アメリカの打ち上げたものは丸くはないような)。


丸い形状とメタリックな輝きが金属、金属しているところなどが

個人的印象としては「ああ、東側」という印象なのでありますよ。

そして、さらに個人的には安いレトロSFに出てきそうなふうとでもいいますか。


先ほど好むと好まざるとに関わらず…てなことを申しましたのは、

そうした個人的印象ですので、見上げていた目線を普通の高さに戻しますと、

こちらもよく目につくところでありますね。


赤のアンペルマン 青のアンペルマン

東ドイツ由来としては、日本でも最も有名でありましょうかね。アンペルマンです。

なにしろアンペルマン・グッズのショップが東京にもあったようですから。

(今は無くなってしまったようですが)


そして、こちらはもっぱらドイツで人気ということのようですけれど、

かつて東ドイツのメーカーが製造していた自動車「トラビ」です。


トラビ人気でミュージアムまで

「トラビ」のいうのは愛称でありまして、本来は「trabant(トラバント)」。

ドイツ語の意としては、付随するもの、随伴するものであるところから衛星とも訳されますが、

どうやらこれは同盟国ソ連のスプートニク打ち上げ成功に因んで名づけられたのだとか。

(思わぬところでまたスプートニクが出てきました…)


そんな「トラビ」がかなり流行っているのだとか。

なにしろ上の写真のようにそれだけのミュージアムもありますし、

先にふれたDDR博物館には運転シミュレーターもあるのだとか。


まあ、このあたりは必ずしも「オスタルギー」効果ばかりではなくて、

東ドイツでも「いい仕事をしていた」ということでもありましょうかね。

メンテを加えた「トラビ」がラリーで完走したりもしているのだそうですから。


と、今度は街並そのものに目を向けてみますけれど、

ベルリン在住の案内者曰く「最も東ドイツらしい」てなことでもありまして。


カール・マルクス・アレーに並ぶスターリン様式の建物


整然とスカイラインの揃った建物が並ぶこの通りはかつてスターリン通りと呼ばれていたと。

現在ではカール・マルクス通りになってますけれど。


パリの町も高さが揃っていたりするところがありますが、

それを見て「画一的」との印象はあまり受けないものの、こちらは…。

スターリン様式てな建築スタイルでもあるそうな。


こうしたあれこれが新しさ、古さに混在するベルリンは

なかなかに特異な町なのでありましょうねえ。