ブリュッセルの王立美術館を構成するマグリット美術館世紀末美術館を巡り、

ちょいと楽器博物館に寄り道してから再び王立美術館の古典美術館に戻ってまいりました。

 

古典美術館@ブリュッセル

 

王立美術館の本来はこの古典美術館からということになりまして、

10年前にもこのエントランスホールから作品を見て回り、

地下に行けども行けども展示が続くのに「ほお~」と思ったものでありましたよ。

その辺りは、今では世紀末美術館ということになっているわけですな。

 

ま、今回は再訪とあってちと重点を置くものとそうでないものと。

重点を置く方のひとつはピーテル・ブリューゲル、それもパパ・ブリューゲルの方でありますよ。

 

ピーテル・ブリューゲル「ベツレヘムの人口調査」

 

これはブリューゲル作品でも比較的有名な「ベツレヘムの人口調査」(ベツレヘムの戸籍調査とも)。

これに関しては主題からしてやむを得ないとして、また描かれた年代が古い(1566年)からということも

もしろんあるとして、パパ・ブリューゲルにこだわるのは絵に表れた「翳り」なのですよね。

 

息子ブリューゲルは画面のトーンがいささか明るすぎだなと、個人的にはいつも思うところでして。

パパ・ブリューゲルの「翳り」こそが、想像を16世紀に連れて行ってくれる源に思えるわけです。

 

晩年をブリュッセルで過ごし、王立美術館からもほど近いノートル・ダム・ド・ラ・シャペル教会に

パパ・ブリューゲルは埋葬されただけに、王立美術館ではパパ・ブリューゲル作品をいくつか見ることができる。

しかも(何度も言いますが)かぶりつきOKで、です。

 

 

こちらはフランデレン(フランドル)の冬景色を描いた1565年の作品。

スケート発祥はネーデルラント地方とあって、凍った川で人々がスケートに興じる楽しい景色ですけれど、

もちろん色調も含めて「翳り」がありましょう。そして、枝から見下ろす黒い鳥も…。

 

 

ほどなく始まる(かなり商業的に思えなくもない)アートイベントで取り上げられる加山又造が

基本的にはウィーンにある「雪中の狩人」を意識したであろう作品を描いていますけれど、

こちらの絵で高枝にとまって人々を見下ろす黒い鳥もやはり加山の「冬」に通じておりましょうね。

ただそれを直接的に寂しい風景として描くのでなくして、人々が楽しむ姿とともに描くことで反って

「楽しみは束の間」、つまり「メメント・モリ」の印象が滲んでくることになるものと思います。

 

ピーテル・ブリューゲル「叛逆天使の墜落」

 

お次にはこちら、「叛逆天使の墜落」(1562年)。一見してヒエロニムス・ボスの影響大でありますねえ。

ボスの有名な「快楽の園」が描かれたのは60年ほども前ですので。

 

 

それにしても、こうした絵で異形のものを創造するのは簡単ではないことが偲ばれますね。

ブリューゲルも頑張って数々のクリーチャー生み出していますけれど、

先輩のボスにはどうにも追いついていないような。

 

その分、作品全体から感じる異相さもまたボスには及ばないようにも思いますが、

絵のテーマがより直接的に伝わるのはブリューゲルの方なのではなかろうかと。

ストレートに天使VS.堕天使の戦いのさまとして。

 

と、「叛逆天使の墜落」のついでに「墜落」つながりではこちらの一枚でしょうかね。

なかなかに物議を醸している作品、「イカロスの墜落のある風景」です。

 

ピーテル・ブリューゲル「イカロスの墜落のある風景」

 

今ではここ王立美術館の展示でも、作者名は「PETER BRUEGEL Ⅰ?」と疑問符付き。

本当にブリューゲルの作であるのか、そうでないのか、諸説あるようながら、

Wikipediaにはブリューゲルのオリジナルからの複製という考え方があるようで。

 

個人的には前からブリューゲル本人の作ではなかろうかあと、素人考えで思っていたのですね。

手前に描かれた農夫が与える「止まった」感に心地悪さをぬぐえないものですから。

ただ複製ということなら「あるかもしれん」と。

これではないものの、ブリューゲルが描いたオリジナルならばも少し違う印象かもしれませんしね。

 

と、最後にもう一枚。「東方三博士の礼拝」です。

 

 

展示の説明には描かれた年代が入っていませんでしたが、

知られる限りでは比較的早い時期の作品であるようす。

古来の宗教画の面持ちをたたえつつ、礼拝を取り巻く群衆のようすには

後のブリューゲルらしい作品を思わせるところがあろうかと。

当時のブリューゲルが直球勝負に挑んだ一枚でもあろうかと思うのでありますよ。

 

ということで、まずはブリューゲルに終始してしまったブリュッセルの古典美術館のお話は

さらに続くということで。

 

 

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