ということで、やってきたのはブリュッセル芸術の丘 にあるマグリット美術館。

10年前に訪ねたときには全部ひっくるめて王立美術館だったところが建物の外側はそのままに

内部や地下を大改装して、今では古典美術館、世紀末美術館、マグリット美術館などが並ぶ

ミュージアム・クオーターのようになっておるようですなあ。



で、それらを網羅してみられるコンビチケットを買って、まずはマグリット美術館へ。

しかしまあ凄いですなあ、その名のとおりとはいえ、ここは建物全部マグリットなのですから。


と、ここで触れておきたいのが先に横浜美術館 でコレクション展を見た際のこと。

「全部みせます!シュールな作品 シュルレアリスムの美術と写真」というタイトルのもと、

シュルレアリスム作品てんこ盛りのなかにマグリット作品もあったわけですが、

ルネ・マグリットの作品タイトルに関する展示解説を紹介するのは後ほど…と、

その時に書いておりましたことにようやく出番が回ってきたのでありますよ。


展示解説にありましたのは、

マグリット自身が作品タイトルに込めた思いを語る言葉なのですが、曰くこのように

絵画にとって極上のタイトルは、私たちに何も教えてくれないけれど必ずや観る者を驚かせ、魅了してくれる、そんな詩情あふれるタイトルだ。

マグリットの不思議世界は絵を見るのが好きと言える以前から気になるものでしたけれど、

接する機会が増えるにつれ、その作品タイトルの「あざとさ」を思うようになっていったのですね。

マグリット美術館を訪ねて、おなか一杯になるまでその作品に接したところ、

その思いは増して行ったわけですが、この横浜美術館で見かけた言葉を知るに及んで

「やっぱり本人もそう考えていたんだ」と思ったのでありますよ。


絵画作品のタイトル付けは、古くは絵画のヒエラルキー上位にあった宗教画や神話画では

先に物語がある分、頭をひねる余地のおよそ無いものであったと思います。

また、近代から現代にかけてになりますと、タイトルは「無題」であったり、

番号だけだったりするものが出てくると同時に、題名の読解だけで苦労するような

哲学的といいましょうか、深い含みを持たせた(であろう)タイトルも出来てきますですね。


そんな中で、マグリット作品を見るときに最初はその深遠なる意味合い含みでもあらんかと

思ったりしていたわけながら、だんだんとそうではないのではないかと思い始めたわけです。

そして、本人の言葉に接してみれば「あにはからんや」であったという。


こう言い切ってしまっていいのかとも思うところながら、

マグリットの場合には描かれたものでまず見る者に頭を捻らせ、

タイトルに目を転じたときにさらに頭を捻らせるように仕組んであるのではなかろうかと。


ですので、タイトルと描かれたものとの関係を説明付けようと考えること自体、

マグリットの術中に嵌まったというべきかもしれませんですねえ。


例えば(展示作品ではありませんでしたけれど)有名どころとして

「白紙委任状」とか「ゴルコンダ」とか、考えても詮無いことなのかもですよ。

しかしそうは言っても、ついつい考えたくなってしまったりするのですけどね。


マグリット「アルンハイムの地所」 マグリット「黒魔術」



ここには今回見た館内展示からふたつほど引っ張ってきましたけれど、

右側の作品タイトルは「黒魔術」。一見して「黒」の印象はまるでない中で

絵の中の女性は黒魔術の結果としてこのように?…てなことを考えてしまう。

見事にマグリットにしてやられているわけですな。


また、左の「アルンハイムの地所」というタイトルはエドガー・アラン・ポーからの借用であると。

元々ポーの小説自体が幻想味を帯びているところへ、

その小説のイメージ化でもなさそうな絵柄を持ってきて観る者が頭を捻るさまを

マグリットが喜んでいるような。


まあ、このあたり作り手とともに知的なトリック遊びを楽しむてなことでもあろうかと思いますが、

今回マグリット美術館で見た実物、有名作なので画像として見たことはあるところながら、

やっぱり本物には本物の…ということがマグリット作品でも(?)あると改めて。こちらです。


ルネ・マグリット「光の帝国」


昼なんだか夜なんだか渾然一体なのがシュールで…とかいう説明はともかくも、

とにかくきれいな絵でありましたことよ。「マグリットにいったい何が起こったのか?」と

訝しんでしまうほどに美しい。頭を捻るのはお留守にして結構という感じでありました。


館内に作品はもちろん、生涯をたどる解説やら写真やら

その他マグリットに関する物がいっぱい詰まっていますので、

あまりそのことに触れてないのはいかがなものかということになりますが、

とにもかくにも「光の帝国」をそれこそ誰もいない展示室でためつすがめつじっくり見られた、

それだけで訪ねた甲斐のあるマグリット美術館@ブリュッセルなのでありました。


ブログランキング・にほんブログ村へ