この時期恒例の催しでしょうか、一昨年に聴きに行ったことのある
国立音楽大学 の教授陣(もちろん演奏家でもありますが)による立川での演奏会に
行ってきたのでありますよ。
この演奏会のいいところは余り演奏機会の無い曲をやってくれることでもありましょうか、
編成の関係で普通の演奏会では取り上げにくかろう曲がプログラムにのるのでして。
1曲目はベートーヴェンのセレナードニ長調作品8より第一楽章。
これはヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの三重奏で演奏されます。
お次はシューベルトの歌曲「岩上の羊飼い」D.965。
これがまあ、ソプラノ独唱とピアノ伴奏になんとクラリネットが絡むという変わった編成なのですな。
曲目解説には「クラリネットは基本的に羊飼いの吹く笛のを表しています」とありますが、
歌唱との掛け合いがあまた生ずるあたり、クラリネットは羊飼いの吹く笛である以上に
羊飼いそのものなのではと思ったりするところです。
そして、メインディッシュとなっていたのがベートーヴェンの七重奏曲変ホ長調作品20。
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス各1の弦楽に
クラリネット、ファゴット、ホルンの管楽が合わさっての七重奏で、これも個性的ではありますね。
ただ6楽章という多楽章構成も(モーツァルトに多々ある)機会音楽としてのセレナード風で
音楽の革命家たるベートーヴェンにしては(29歳という若い頃の作でもあり)実に受け止めやすい。
発表当時も大いに人気を得た作品であったようなのでありますよ。
お披露目はベートーヴェン自ら企画した自主演奏会で、曲目には
自身独奏を務めたピアノ協奏曲第1番、いよいよ挑んだ交響曲第1番などが並んでいたそうな。
どれもこれもが自信作、意欲作であったでしょうけれど、その中で最も好評であったのが
この七重奏曲であったとは、喜んでいいのやら悲しんでいいのやら。
これによって(Wikiにもエピソードが紹介されていますけれど)ウィーンでの世評として
「七重奏曲のベートーヴェン」などと言われたりするのが、ベートーヴェンには
ひどく気に障ることでもあったようですな。
この曲とて手を抜いた作ではなかろうものながら、
本人的にはコンチェルトやシンフォニーを評価してほしいと思っていたのではなかろうかと。
これは七重奏曲が機会音楽的ないわば大衆受けする路線であることによるとしても、
モーツァルトまがいとベートーヴェンっぽさがともに顔を覗かせるこの曲は
いかめしいばかりの印象になる前のベートーヴェンの姿を彷彿させるものとして、
まあ後世の者からすれば楽しんで聴ける佳い曲であるなと思えるのでありますよ。
楽しいというのもまたベートーヴェンの一面なのですなあ(笑)。