杉原千畝という外交官の名前が知られるようになったのは、

その事績に比べてずいぶんと時間が経ってからでありますなあ。

映画が作られて公開されたのも、2015年のことでありましたし。


杉原千畝 スギハラチウネ DVD通常版


そうはいっても見ていなかったこの映画を見て、

確かに独ソ戦開戦前夜のリトアニアで欧州から逃れようとするユダヤ系の難民に

杉原が日本の通過ビザを発給し、結果6000人余りが生き長らえることができたということが

改めて分かりました。


ですが、映画が杉原千畝という人物を追いかけて、その生涯をたどる中には

たくさんのユダヤ系の人々を救ったという側面だけではない部分にも触れながら、

どうもその部分は説明不足感が否めなかったような気も。


そこで、ちょっと補っておかねばいけんかなと思ったものですから、

本を一冊、手に取ってみたのでありますよ。

「杉原千畝 情報に賭けた外交官」というタイトルのものでありました。


杉原千畝: 情報に賭けた外交官 (新潮文庫)/白石 仁章


ただこれは文庫で出たときに改題されていて、

初出時のタイトルは「諜報の天才 杉原千畝」となっていたのですな。

「命のビザ」の大量発給によって、とかく人道主義者の側面でばかり語られがちの杉原を

著者は第一級のインテリジェンスオフィサー(単純に訳せば情報士官でしょうか)であったとして

その活動を描きだしていく、「諜報の天才」とのタイトルはその辺りに由縁がありましょう。


宥和政策によってヒトラーの動きが何とかぎりぎり押しとどめられていた欧州情勢下、

そもそも杉原がリトアニアのカウナスへ赴任を命じられたのは何故なのか。


だいたい現在のリトアニア共和国の首都はヴィリニュスですけれど、

このヴィリニュスという町が辿ってきた歴史に目を向けてみれば、

(といって、この本を読むまで全く気付いてませんでしたが)陣取り合戦のたびに

翻弄されてきた土地だということがよく分かるわけで、第二次大戦に際しても

そんな土地だからこそのリトアニアだということが思い知らされたりもするわけです。


世界史の教科書(日本のですけれど)では、例えばポーランド分割というのは

いわゆる帝国主義のありようの一つとして必ず出て来るところでして、

「ああ、ポーランドという国はかわいそうに…」と思ったりしますけれど、

教科書で取り扱われない中ではリトアニアはそのポーランドに圧力をかけられていたりする。

知らなかったことがたくさんあるわけですねえ。


と、話はすっかり杉原から離れてしまいましたが、第二次大戦時の歴史は

軍部主導に押し切られて日本は戦争を拡大していく経過をたどるところながら、

在外公館から発せられる情勢分析が(メンツや神頼みや精神論に頼ることなく)

耳を傾けられていれば、展開は大きく違ったのかもしれないと思えたりもする。


戦闘行為を引き起こしたこと自体をどうかというのはもちろんのことですけれど、

それ以前から集団的に冷静さを欠いていたこと、そうしたことが生ずる社会機構であったこと、

そうしたことも歴史から学ぶべきことなのだろうと考えたりしたのでありました。


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