その名をよく知られた名探偵を4人も登場させる西村京太郎作品 を読んだ折り、

4人それぞれにいかにもな言動が興味深いところ…とは言ったものの、

エラリー・クイーン、エルキュール・ポワロ、明智小五郎はともかくももう一人の登場人物、

ジュール・メグレはいささか馴染みのないところでありました。


たまたまにもせよ、今年2017年の春先あたりでしたでしょうか、AXNミステリーで

メグレ警視(あるいはそれ以前の肩書で、メグレ警部)ものがいくつか放送されたのですよね。


映画としては定番とも思しきジャン・ギャバン版、

英国でポワロシリーズを手掛けたグラナダTVのマイケル・ガンボン版、

そして驚いたことに何故?というキャスティングのローワン・アトキンソン版

見たりしてはみたのですが、どうにも「これがメグレか」という像を結ぶには至らずじまい。


結局のところ、ジョルジュ・シムノンの原作を一冊しか読んでおらないことが原因でありましょう。

それも読んだことさえ忘れていたくらいですから、ここでまたリトライしておくに如くは無し。

このほど手にとったのは「男の首」、「黄色い犬」という二つの中編を収めたものでありました。


男の首 黄色い犬 (創元推理文庫 139-1)/ジョルジュ シムノン


メグレと他の3人の探偵を比べた場合に決定的に違うのは、

メグレが警察組織に属しているということでありましょうね。

組織に属していないということは相当に自由度も高く、

これは書き手にとってどういう人物を拵えるかという点でも自由度が高くなりましょう。


ですから、私立探偵たちのキャラ立ちの良さはむしろ当たり前であって、

組織の中おいていささか特徴はあるにしても突飛な設定をしにいくという違いが

メグレを取り巻いているものと思われます。


でもって、そうした環境での活躍も地道な捜査、ときには試行錯誤を繰り返しながらですが、

それを積み重ねていって結論(解決)に到達するという、言ってみれば

よく2時間ドラマで見かけるような展開であって、そこには人情味というか、人間味も

漂うことになったりする。


本格推理と言われる類いを好むミステリー好きの方々が

おそらくは2時間ドラマを好物とはしないであろうと思うのですが、

やはり同列に並べて比べるものではないのではなかろうかと思ったりするところです。


というところで今回読んだお話二編ですけれど、

今申し上げたような前提を踏まえて考える限りにおいて「まあ、面白かったかな」と。

あまりに特異な犯人像である「男の首」よりも「黄色い犬」の方がより。


ただし、本格ファンなら激しく突っ込むところでしょうけれど、

メグレがどうしてこの解決を見出したのかが詳らかにされないのですよね。

先にも触れたとおりに試行錯誤を繰り返す中でたどり着いてしまったということでしょうか。


てなふうに言ってしまうと、ミステリーとして大変な欠点を抱えているやに思うところながら、

あまり気にならないと申しますか、気にしないで読めると申しますか。

もしかすると(もしかしなくても?)メグレものはミステリー風味の小説なのだと考えて読めば

それ相応の楽しみではあると言えるのかもしれません。


と、読むに先んじていくつかの映像化を見てもピンとこなかったとは言いましたですが、

つい最近になってまた別の映像化、フランスで作られたドラマ版というのを

やはりAXNミステリーでやっておりました。


「男の首」や「黄色い犬」でも描かれているように、組織の人なだけあって

口うるさい上司から「早く結果を出せ」「すぐに報告しろ」と迫られるメグレの姿がありましたなあ。


こうした組織の中に置かれた人物像というのも、

普通の人々の多くが何からの組織に身を置いているだけに「感ずるところ」ありなわけで、

こうした点を考えてもいわゆる「本格推理小説」なるものとは違う土俵というべきでありましょう。


繰り返しになりますが、2時間枠のミステリー・ドラマが好きな方には

フィットする作品なのかもしれませんですよ、メグレものは(個人的には嫌いでないです、笑)。


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