聖母教会 を訪ねてブルッヘとブルゴーニュ公国の栄華に思いを馳せたあとには、
教会のほぼお向かいにある「Sint-Janshospitaal」を訪ねたのでありますよ。
日本語のガイドには「聖ヨハネ施療院」と表記されているものが多いですね。
これまでも俄かオランダ語使いでもあるかのように、
オランダ語(ブルッヘではフランデレン語でしょうけれど)ではどうのこうのと触れてきましたので、
この場所も「Sint」は「Saint」で「聖」、「hospitaal」はもちろん「hospital」で「病院」てなことに
すぐお気付きになろうかと(ご覧の方がたもすでに俄かオランダ語使いでありましょう。笑)
それはともかくとして、この12世紀以来という長い歴史を持つ病院は
1978年まで開業していたという話ですから、大分・日田の日本丸 もおどろく存在?でありましょう。
その後には古い建物を活かしながら、ミュージアムに改装されているということで訪ねた次第です。
当然にしてキリスト教に根差した施設でありますから、
宗教的遺物がたくさん展示されていますけれど、まずは高い天井に「ほおぉ」と。
梁などは昔のままなのでしょうかね。
病院であった名残という点では、片隅におかれたこれが気になったのですが、
果たしてこれはなんでありましょうか。
「De draagstoel」という名称であることは分かりましたが、
あいにくと解説はオランダ語オンリー。俄かオランダ語使いにはたちうちできません。
日本語としては「輿」というのが一番それらしいですが、
病院だけに担架のようなもの?と思うも、それにしては大袈裟。
思いつくのは伝染病患者を運ぶとか…てなところですが。
ところでこのミュージアムは別名を「メムリンク美術館」というのですな。
ドイツ生まれの画家ハンス・メムリンクは15世紀のブルッヘで活躍したところから、
メムリンク作品の大作を中心に展示してあるようなのですよ。例えばこのように。
この時代の絵は中世ほどではないにせよ、立体的に見せる点ではまだまだで、
それが画像の「静止している感」を与えますけれど、それがともすると静謐さともとれますが、
メムリンクの静謐さはちと独特のような。
題材が宗教画ですので静謐さはつきものであるとしてもです。
ところでメムリンク美術館といって、さほどに点数は多くないものの、
結構細かいところを示してくれたり、ビデオ映像を使った解説があったりという特徴があります。
例えばこのマールテン・ファン・ニーウウェンホーフェと聖母子を描いた作品では、
マドンナの右肩のところにある鏡には中に写り込んだモデルたちの後ろ姿が描かれているのだと。
類似例としてはヤン・ファン・エイクの描いたアルノルフィーニ夫妻の肖像がありますが、
もしかすると50年ほど前のこの作例をメムリンクは取り入れたのかも。
それにしても、マドンナの後ろ姿が鏡に写っているとは、なかなかに不遜な事例なのかも…。
また、こちらの男性像は下書き段階で
ずいぶんと顔の輪郭線を書き直していることが示されていたり。
この描き直しってモデルを写実的に描くことより全体のバランスとかを考えたものでは?
と思えてくるあたり、いろいろと興味を湧き起こすような展示に工夫があったのでありますよ。
ところで、ベルギーには「七大秘宝」と呼ばれるものがありまして、
そのひとつがこのメムリンク美術館にあるのですな。
メムリンク作「聖ウルスラの聖遺物箱」。
ローマ巡礼の帰途、フン族の襲撃に遭って殉教したという聖ウルスラのお話を
長い面の両側に絵巻物のように描いてあるのですね。
これが実に精緻に描かれているわけです。
聖遺物箱としての装飾性の高さと相まって、実に目を引く存在感がありましたですよ。
ベルギー七大秘宝はヘント(ゲント)の「神秘の仔羊」祭壇画、
アントウェルペン(アントワープ)のルーベンス「十字架降下」(「フランダースの犬」の!)、
ブリュッセルの王立美術館にあるブリューゲル作(が疑問視されている)「イカロスの墜落」を見て、
これで4つめ。やがて制覇!となりましょうか。
てなことで、気持ち的には晴ればれ感もありましたが、外へ出れば再び降り出した雨。
今度はいずこで雨宿りと行きましょうか…と。