8月のあたまくらいでしたか、NHKのEテレシアターで地人会新社の舞台公演が
放送されてましたですね。公演自体を見たいと思っていた舞台だっただけに
録画をしておきましたですが、例によって後出し的に見たというわけなのでありますよ。
「これはあなたのもの 1943-ウクライナ」という作品です。
ノーベル化学賞を受賞した世界的な学者ロアルド・ホフマンによる自伝的作品だそうですが、
ホフマンの母親に相当するフリーダ(八千草薫)がこんなことを語る場面があるのですね。
1911年生まれのフリーダは今でこそアメリカに住んでいるわけですが、
故郷の村は自身が生まれた頃にはオーストリア・ハンガリー帝国の領土であったと。
それが第一次大戦の後にはポーランドとなり、やがて第二次大戦当初はソ連が進駐してくるも、仲違い(?)したナチス・ドイツが攻めてきて占領されてしまうことに。
そして、戦争が終わった後はウクライナになっていたという変転です。
自分は故郷から動いていないのに、生きているうちにそこを支配する国だけが何回も代わった。
それだけでも苦難の人生であったと想像されますけれど、これに加えてフリーダの一家は
ユダヤ人だったのですなあ。
元来の故郷はポーランド人、ウクライナ人、ユダヤ人が1/3くらいずつ住まっていたそうな。
それが仲良くとまではいかないにせよ、何とか折り合いをつけながら大事に至らぬよう
過ごしてきていたものと思いますが、国という支配者が変わることで軋みが生じてしまう。
ナチスの侵攻でユダヤ人が危うくなったときに、
ウクライナ人はナチに手を貸してユダヤ人を追ったとして、
フリーダはウクライナ人を決して赦せないといのですね。
これに対して、遡ってソ連がやってきた際にはウクライナ人の虐殺があり、
これにはユダヤ人が手を貸したともっぱらウクライナ人には信じられているのだということを
息子のエミール(吉田大作)は母親を諭すのですが、母親には受け入れられない。
だいたいユダヤ人がウクライナ人虐殺に手を貸したことが事実かはわからないのに、
あたかもウクライナ人をかばうような息子の言葉には思いは乱れてしまうわけです。
ただエミールがこんなことを背景には、
自分たち家族が大戦後にアメリカで生きながらえているのは
母親が忌み嫌うウクライナ人のある一家が自分たちを
屋根裏にかくまってくれていたということがあるのですね。
「ウクライナ人」というまとまりでフリーダは憎んでいるけれども、
個々のウクライナ人の中にはいい人もいたではないないか…てなふうにエミールは話を続けますが、
おそらくフリーダに過去への思いを変えさせることはできないのでありましょう…。
またしても、「国って?民族って?」と思ってしまうところですが、
ここまで悲惨ではないであろうものの今でも民族対立が根本的には解決していない国が
ヨーロッパのど真ん中にありますね。ベルギーでありますよ。
元より小さな国(四国より大きく、九州より小さい)ですけれど、
国の中央をまっすぐにゲルマンvs.ラテンの対立軸が走っているような。
とまあ、話は唐突に逸れていきますが、
そんなベルギーへ10年ぶりに出かけてこようというわけでして。
明日からまたしばし留守にいたします(「大分北西部紀行」を書き始めたところなのですが…)。