東京の西の端の方に住まう者が
東の端の方に住まう両親のところへ行き来するにあたっては都心を通過するものですから、
たいていは行き帰りついでにどこぞに立ち寄ってと思うのが常でありますけれど、
こうも暑いとあまりそういう気にもならず…。
せめてもと立ち寄りましたのは、
わざわざ東京の東の方にまで足を運ばなければまず覗くことのないギャラリーA4(エークワッド)。
折しも開催中なのは「ヴァージニア・リー・バートンのちいさいおうち」展なのでありました。
バージニア・リー・バートン(バージニアと記す方が一般的のようで)の絵本は、
自分自身子供のころに手に取ったことがありますが、
実に息の長いロングセラーでありますなあ。
ちなみに「ちいさいおうち」は2017年で刊行75年だそうで。
加えて、このように絵本の表紙が並んでみれば、
「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」やら「はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー」やらと
「おお、あれもこれも見たことある!」てな具合になりましょうし。
しかしながら、作者のバージニア・リー・バートンはどうやら絵本作者にとどまらず、
テキスタイルやグラフィックというデザイン関係の仕事でも活躍した人なのだそうで。
なさまざまな意匠を創案することにも長けていたことが、
「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」と「ちいさいおうち」という、
パッと見では同じ作者?とも思える絵の違いを生み出しているのかもしれませんですね。
ところで、いかにも「ちいさいおうち」といったらこんなふうなんだぁねと思わせる
可愛らしい絵柄は必ずしもバージニア・リー・バートンの創作とは言えないようでもありますね。
だからといってもちろん誰かしらの借り物てなことを言い出すわけではありませんで、
この「ちいさいおうち」の佇まいというのは「ケープコッド様式」と呼ばれる伝統的な家に
そっくりなのだということで。
バージニアと夫のジョージが住んだマサチューセッツ州のケープ・アンは
この様式の伝統的な家々が並び、アーティスト・コロニーもあったところといいますから、
芸術を志す人たち愛された場所だったのでありましょうね。
そうしたほのぼのとした環境にある一方で、
電車で約1時間という大都会ボストンの変貌する都市景観をも眺めやったときに
「ちいさいおうち」は生まれたのかもしれません。
バージニアが展開したデザイン活動では
「対象をよく見て本質をつかむまでデッサンを繰り返すことの重要性を説いてい」るそうですが、
「本質をつかむ」ことの重要性はおそらく絵本作りにも生きていることでありましょう。
「ちいさいおうち」というシンプルで、見るからに子供のための絵本が
伝えてくるメッセージは時代を超えて、地域を越えて人に響くものでありましょう。
それこそ、バージニアが「本質」をつかんで提示しているからなのだろうなあと、
そんなことを思う展覧会なのでありました。