世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし

毎年、春になるとこの在原業平 の歌を思い出しますですねえ。
春の兆しが感じられるようになってくると、気に掛かるのは「桜はいつ咲くだろうか」ということ。
まあ、今年の東京では開花宣言こそ早めにありましたですが、

その後は冬に逆戻りしたようでもあって、ちいとも咲き揃っていかないことに、

これはこれでやきもきさせられて…。


そんな今年の桜も(東京では)いよいよ桜吹雪の舞う段階で終りに近づきつつあるようす。

そんな 頃合いとしてはいささか時季遅れではありますけれど、桜の薀蓄を少々。
といっても、たまたま立ち寄った立川の昭和記念公園 花みどり文化センターで見かけた
桜に関する展示解説の受け売りなのですけれど。


まずは桜と毛虫の関係とでもいいますか。
ソメイヨシノの場合ですと、花が散った後には今度若葉が一斉に吹き出しますね。
これはこれで実に爽やかなものですけれど、この頃に桜の木の下を歩いていて
うっかりすると毛虫がポトリ…てなこともあろうかと。


この出たての頃の若い葉っぱは柔らかく、蛾の幼虫には打ってつけの餌なのだそうですね。
ある程度まで葉が成長するとしっかりと硬くなってくるので、

そうなると餌食になる可能性は減るようですけれど、
それまでの間に食い尽くされないように桜も自衛しなくてはならないわけです。


ところが、植物は動かない ものですから、自ら枝を揺すって害虫を揺り落とすわけにもいかず、
ある生き物の力を借りて対処するそうなんですが、その味方になってくれる生き物というのが

アリなのだそうで。


桜には葉っぱの根元あたりのところに「蜜腺」があって、ここから蜜を出しておるそうな。
これに釣られてアリが集まってくるのですなあ。


しかもえっちらおっちらと桜の木に小さなアリが登ってみれば、蜜を得られるばかりでなく、
蛾の卵や幼虫が見つかる。これまたアリにとってはごちそうということですので、

蜜に釣られたとはいえ、アリたちもうはうはの状況らしいのですよ。


先に触れたとおりに葉が成長して硬くなってくれば、アリにお願いする必要もなくなりますので、
蜜の分泌も終了するといいますから、うまくできたものですなあ。


一方で、桜も植物ですからやがて実をつけるわけですが、
そこらの桜の木に「さくらんぼ」が実るのでないことは言うまでもない。


ヒトが食べる「さくらんぼ」は食用に品種改良を進めた「セイヨウミザクラ」の実であるとか。
つまり桜の花は日本の代表的な風物詩ながら、チェリーと言わずさくらんぼと言ったところで
実の方は結局のところ西洋由来のものであるようです。


で、ここでのお話は普通の桜の小さな実のことでして、これはこれで鳥の大好物であるそうな。
ですが、これまたよくしたもので、初めは緑色、熟すについて黄色、紅色、やがては黒と変色し、
緑の頃には苦味が強かったものが、赤くなるにおよんで甘くなって、鳥には食べ頃となるという。


動物の目には種によって個性がありますけれど、鳥は赤を識別しやすいようで、
つまりは桜の実が赤くなるということは鳥に食べ頃サインを送っているようなものなのでありますよ。


しかし、なんだってそれほどまでして桜は実を食べてもらいたがるのか。
これは言わでもがなではありましょうけれど、

種をあちこちに運んでもらって子孫繁栄を手伝ってもらうのですな。
果肉は鳥の栄養になりますが、種は糞と一緒にあちこちに播かれるわけで。
いやあ、自然界の進化の妙が感じられるではありませんか。


とはいえ、桜とアリや鳥はうまいこと共存関係にばかりあるわけではないようで。
桜の散り際ははらはらと花弁のひとひらひとひらが舞うように落ちていきますけれど、
そうなる以前でも「花」の形のまんま、ポトリと落ちているのが見られるといいます。

(個人的には見かけたことがあるような、無いようなですが…)


まあ、桜が咲けば咲いたで天候不順になるのも例年のことで、
取り分け花を散らさんばかりに強風が吹くこともありますので、
ポトリと落ちてしまった花は運悪く風に巻かれたのでもあらんかと思うところですが、
どうやらそうではなさそうで。


これの犯人はどうやらスズメであるというのですね。
スズメやヒヨドリなどは桜の花の蜜を狙ってくるのだそうですけれど、
ヒヨドリのようにくちばしがスリムに長くなっていれば花の置くにある蜜にくちばしが到達する。
ところが、スズメを思い浮かべてみても分かるようにくちばしが短いですな。
花の奥の蜜に届かないわけです。


ですが、諦めきれないスズメとしては何とご無体なことに

花の根元のところから切り落としてしまい、花の裏側、根元の方から

蜜にアプローチするという技を身につけておるのだとか。

本来、花の蜜は実を結ぶための受粉を手助けしてもらいたいがための

植物側の作戦なはずですが、花ごと切り落とされてはもちろん実を結ぶこともできない…

となれば、スズメは桜の天敵なのでは。


ともあれ、自然界は常に闘いの場でもありますね。
花が咲くかどうかでヒトはやきもきさせられる桜ですけれど、
桜の側では花を咲かせて受粉を手伝ってもらい、
結んだ実があちこちに播かれるであろうか、

花のあとの葉っぱも虫に食べられずに成長できるだろうか…てなことで

やきもきし通しの春なのかもしれませんなあ。


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