ヌフ=ブリザック を後にしたバスはしばし田園風景を走り過ぎ、
だんだんと町らしい中へと入り込んで行きましたけれど、とある街角に停まるや
ドライバーが乗客の方を向いて何やらひと声告げたのですな。


すると乗客が我も我もと降りていく…となれば終点でもあらんかと慌てて降車。
バスは走り去り、周囲はバスから降りた人ばかりでなく観光客がたくさんいるものの、
「はて、ここはどこ?」と。


と言いますのも、バスはコルマールの駅行きであって、
駅から旧市街はちと歩かねばなあと思っていたわけですが、

降りたところはどう考えても駅ではない。

まあ、結果から言えば乗ったバスは終点のコルマール駅に向かう途中に

旧市街に停車することから、みんなわらわら降車したという次第でありました。


後から思えばドライバーは「テアトル!」と叫んだようで、要するに劇場前。となると、

コルマールで第一の目的地たるウンターリンデン美術館は回りこんですぐ裏にあるはず。
駅から歩くものとばかり考えていたことからすれば、

なんとらくちんにたどり着いてしまったことか。


ウンターリンデン美術館@コルマール


コルマールはアルザス地方の町ですけれど、

この地方は昔からドイツになったりフランスになったり。
言葉もアルザス語とは独特のものなのでしょう、

美術館の名前が「ウンターリンデン」とはドイツ語っぽい。
つい森鴎外 の「舞姫」に出てきた「ウンテル・デル・リンデン(菩提樹下)」を思い出しますね。


元の修道院はこのような?


元は修道院であった建物を利用しているのでしょう、かつてはかなり大規模だったようですが、
美術館となった今も展示室が館内に点在し、
フロアマップをよくよく見ないと迷子になりそう。

そんな中、まずは元修道院らしくキリスト教芸術の作品を見ていくことにしたのでした。


1500年頃、ライン地方のマイスターによって制作された聖母子像


こちらは1500年頃、ライン地方のマイスターによって制作された聖母子像。

古い時代の作品はかなり決まりきった表情だったりしますけれど、
誰かしらはっきりしたモデルに似せてでも作られたものでしょうか。

生きた感じがするように思えたですよ。


別のライン地方のマイスター作「聖アンナと聖母子」


これも、先の彫像作者とは別でしょうけれど、やはりライン地方のマイスターの作品。

1480年頃制作されたという「聖アンナと聖母子」ですけれど、

背景にある金箔の模様が実に見事なのですなあ。


また別のライン地方のマイスターによる木彫レリーフ


これまたライン地方のマイスター作、キリストにまつわる3場面の木彫レリーフです。
1520年頃に作られたようですが、その頃のもののわりにはやはり人物が生き生きしているふう。
奥行きの出し方も巧いなと思います。


ルーカス・クラナッハ「メランコリー」


そしてこちらは、右側の女性像(といっても有翼の天使ですが)で一目瞭然のように

作者はルーカス・クラナッハ(父親の方ですが、最近はクラーナハが主流なんでしょうか)。


タイトルは「メランコリア」(1532年)となれば、どうしたってデューラー の銅版画が浮かびますが、

デューラー作品で目立っていた数学、算術を想起させるモノの配置の代わりに

クラナッハでは小動物がいたりします。「憂鬱」の描き方の違いですなあ。


そも「憂鬱」を意味するタイトルは昔のヨーロッパで信じられていた四大気質、

そのひとつであることからでしょうか。

「憂鬱質」はWikipediaなどの解説によれば「天才を生み出す」てなふうにも言われる一方で、

「強欲で倹約家、利己的で根に持つタイプ」と「うむぅ・・・」な書かれぶり。


ただ「一人で思索に耽ってばかりいる」というあたりも含めて、

デューラーの方はいかにもな気がしますけれど、クラナッハの作品はもかなり明るいですな。

左上に暗雲が見られはするものの、全体的なトーンは対照的。

こうした違いを見比べるのも面白いものですね。


修道院名残りの回廊


と、展示室をわたり歩く中では

かように元は修道院であったことが偲ばれる回廊を抜けたりするわけですが、

これまた修道院が生活の場であった名残りもまた垣間見られるところでして。


かつてはこれでワイン造りか…


コルマール周辺はアルザス・ワインの有名なワイナリーが点在する場所ですので、

この修道院でも盛んにワイン造りが行われたのでありましょうか。


…てなこと言っているうちに、

ウンターリンデン美術館で最も有名な宗教作品に触れないまま長くなってしまいました。

マティアス・グリューネヴァルトのイーゼンハイム祭壇画のことは次に触れることにいたします。


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