キングの塔
クィーンの塔 ジャックの塔


藪から棒に建物の写真を並べたですが、「横浜三塔」とすぐにお分かりになる方も多かろうと。
上の「キングの塔」は神奈川県庁本庁舎、下左の「クイーンの塔」は横浜税関、
そして下右の「ジャックの塔」は横浜市開港記念会館、3つ合わせて「横浜三塔」というわけです。

チェスの駒に擬えるなど、開国後いち早く外国風が根付いた横浜らしいところでしょうかね。


史跡「日米和親条約締結の地」@横浜


というわけでやおら横浜に立ち寄ったですが、滞在時間の短いこのほどの訪問地はこちら。
黒船 圧力に屈して1954年の「日米和親条約」はまさにこの地で締結されたという、

その由緒のある土地に現在は「横浜開港資料館」が建っているのでありますよ。


横浜開港資料館


元は英国領事館(1931年建築)であった建物だそうですが、
資料館としての展示はすぐ隣、道路に面した側に建つ新館の中ということで。


新旧建物の間にある中庭にはこれまた由緒を感じさせるものがあるのでして、
まずはこの「ペリー提督横浜上陸之図」をご覧くださいまし。


「ペリー提督横浜上陸之図」


この絵の右側に大きな木が描かれておりましょう。
これが関東大震災やら何やらかんやらで何度も焼けてしまいながらも、
その度に根元から枝を伸ばし始めて現在はこんなになっている…という。


横浜開港資料館中庭のタマクスの木


あたかもフェニックスでもあろうかと思うところですが、

この木はタマクス(タブノキ)だということで。樹木の生命力は大したものですなあ。


と、外側ばかりに関心を示しておりますけれど、わざわざここまで足を運んで立ち寄りましたのは
「その音、奇妙なり」という変わったタイトルの企画展に興味を惹かれたからでして。


企画展「その音、奇妙なり」@横浜開港資料館


以前、東京オペラシティアートギャラリー で開催された

企画展「五線譜に描いた夢~日本近代音楽の150年」 を見て、
日本における西洋音楽の受容を辿ってみたですが、そのときにも
ペリーは26名の軍楽隊と6名の少年鼓笛隊を連れてきていた…というような解説がありました。


ペリー一行が軍楽隊の奏するマーチ(「ヤンキー・ドゥードゥル」だったとか…)に先導されて
行進してくる姿は、久里浜の人たちも横浜の人たちもさぞや目を瞠ったことでありましょう。
それは目にも珍しいと同時に、音としても今まで聞いたことのない楽器の音色は
耳には「奇妙」なものと受止められたのは想像に難くないですね。


その奇妙な音を発する楽器は、音ばかりでなくその形状もまたよく分からなかったのでしょう、
上の「上陸之図」とは別の絵(「横浜鈍宅之図」)では、楽器の構造、

特に金管楽器がどんなふうに巻いているのかが分からず、
それらしく写し取るようにしてはいるのでしょうけれど、かなり適当になっていましたですよ。


横浜鈍宅之図(部分)


やがて横浜が開港する(させられる)と、
そこには軍楽隊ばかりでない西洋音楽が入ってくることに。


1863年(当然に明治以前ですが)には居留地の外国人向けであろうと思いますが、
ヴァイオリンとピアノの奏者が来日公演を行って、「Japan Herald」なる新聞には
「リスト、メンデルスゾーンが好評であった」と演奏会評まで載っているのですから。


こうした西洋音楽の移入が日本人に対して行われるのは、
開国と同時にたくさん渡来してきた宣教師による讃美歌の指導という形であったようですね。
開港資料館のすぐお隣にある横浜海岸教会での出来事を嚆矢とするようです。


最初は英語のままの歌詞で、その後に直訳調の日本語歌詞が当てられたようですけれど、
例えば讃美歌484番「主われを愛す」の場合、「主われを愛す 主は強ければ」という冒頭部分を
「イエスはわれを愛します そう聖書申します」てな具合に歌っていたのだそうな。

音符の数から想像しても、相当に字余りソングになっている気がするところではないかと。


輸入した歌にどれだけ自然な日本語で訳詞を付けられるかは永遠の課題とも言えそうで、
明治政府となってからは少々手っ取り早い手法をとったと言えましょうか。


つまり、外国曲のメロディーだけを借りて、原詞の意味にはこだわらずに
メロディーの雰囲気あった日本語として歌いやすい歌詞を独自(勝手)に付けてしまうというもの。
いわゆる「唱歌」の類いに、実はスコットランド民謡だったり、讃美歌だったりというのがあるのは

その故なのですなあ。


とまあ、日本人はふいに出くわした西洋音楽を「奇妙」と感じたようですけれど、

逆もまた真であって、明治のお雇い外国人エドワード・S・モース(大森貝塚の発見者)は

こんなことを書き残していると。

我国のバンジョーやギターに僅か似た所のあるサミセンやビワにあわせて歌う時、
奇怪きわまる軋り声やうなり声を立てる…

さぞかしモースはびっくりしたのでありましょうね。
まあ、それだけ異文化との遭遇は驚きを持って迎えられるということではありましょう。


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