以前「『サウンド・オブ・ミュージック』の秘密」
という平凡社新書の一冊を読んだときに、
「好きなものに入れ込む」てのはこういうことでもあるんだねと思ったわけですけれど、
ジュリー・アンドリュースの出演映画として「サウンド・オブ・ミュージック」と双璧を成すと
思われるのが「メリー・ポピンズ」ではなかろうかと。
まあ、格調の高さといいますか、そうした点で「サウンド・オブ・ミュージック」と並べるのは
不届きと感じる方もおいでかとは思いますが、
面白くてほろりとさせるエピソードも込められた映画「メリー・ポピンズ」は
「サウンド・オブ・ミュージック」以上に万人向きなのではと思うところです。
ですが、そもそもあるパメラ・L・トラヴァースの原作(本ではメアリー・ポピンズになってますね)に
かなり手を加えて作ってあるようでありますね。
原作者には申し訳のないことながら、
今や「メリー・ポピンズ」と言えば映画の内容を思い浮かべる方が自然なくらいなのでは。
そんな映画「メリー・ポピンズ」の制作過程で、映画化におよそ乗り気でないトラヴァース夫人と
是が非でも映画にしたいウォルト・ディズニー(及びその制作スタッフ)との間に展開するてんやわんや。
この顛末そのものを映画にしてしまったのが「ウォルト・ディズニーの約束」だったのですなあ。
(例によって余り内容を知らずに見たもので…)
「ウォルト・ディズニーの約束」とは原題と全く異なる邦題ですけれど、
そもそも映画化に気の進まないトラヴァース夫人(エマ・トンプソン)が出す注文には従うというのが
ウォルト(トム・ハンクス)の「約束」だったはずながら、これはどう考えても空手形。
何しろ、トラヴァース夫人にしてみれば「ミュージカルなんてとんでもない!」、
「アニメにはしないで!」と声を大にして主張していたところが、結果は誰もが知るところ。
全編にわたって記憶に残るメロディーの歌が散りばめられ、
実写とアニメの融合が笑いを誘うのですから。
こうした結果からすれば、こういっては何ですがウォルト・ディズニーの強かさが見えてくる。
されど、ディズニー・プロダクション制作の映画でウォルトを悪く見えるように描くわけがなく、
「ミスター・バンクス(メリー・ポピンズが面倒を見る子供たちの父親ですな)を悪く描かないで!」
というのがトラヴァース夫人にとって肝心要の部分と見切ったウォルトは(他の部分はともかく)
これに関しては(元のシナリオを変えて)「約束」を果たす…という、
いい人然とした結末になるのですなあ。
ここで本来の原題に立ち返れば
「Saving Mr. Banks」であることの意味合いに通ずることになりますが、
「父親を悪く描かないで!」との強い思いはトラヴァース夫人の生い立ちに
大きく関わっているとの背景がありまして、映画の中ではこの部分と
「メリー・ポピンズ」の制作過程の話し合いとが交互に展開するようになっておりました。
生い立ちの方にあまり触れますと
これからご覧になる方の興を殺ぐことになりましょうから、制作過程の方に目を向けますと、
「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」という有名な言葉(歌)を
原作者は「何それ?」というふうにとられていたり、大詰めの凧揚げのシーンは
父親を悪く描かないとの方針に沿って後から作られたエピソードであったり…と
映画「メリー・ポピンズ」をご存知の方には興味深いところがあれこれ出てくるという。
しかしまあ、この制作過程の話は本当なの?とも思うところながら、
実際に制作スタッフとトラヴァース夫人が意見を戦わせた?録音が残っているようで、
エンドクレジットのところでそんな録音テープが回っているのが映し出されておりましたですよ。
まあ、ディズニーの手前味噌的側面は否めないながら、
映画「メリー・ポピンズ」を楽しんでご覧になったことのある方には
いろいろな断片にニヤリとさせられること間違いなしの映画でありましょう、これは。


