決して素敵なタイトルは言えないでしょうけれど、「言い得て妙」でありますね。
「崖っぷちの男」というのは。


崖っぷちの男 DVD/サム・ワーシントン,エリザベス・バンクス,ジェイミー・ベル


原題は「Man on a ledge」で、
「ledge」の意は「(壁・窓から突き出た)棚」ということですので、
マンハッタンの高層ビルの窓から外へ出てしまい、その縁に立っている主人公の姿は
まぎれもなく「Man on a ledge」。


ですから、日本語の言葉どおりに「崖のふち」に立っているわけではないものの、
「崖っぷち」には必ずしも文字通りでなくとも、

「瀬戸際」感のある状態に置かれていることを示すとは、言わでもがなのこと。


なるほど事情があって追い詰められており、

かつ崖のような「落ちたら大変!」という高所に佇む男は
まさに「崖っぷちに立たされた男」というに相応しいわけですね。


もっとも英語の「on a ledge」も、日本語での「崖っぷち」が含意するニュアンスを
持ち合わせているかもしれませんですが…。


ところで、慣用的に馴染む言い方として「崖っぷちに立たされた」と言いましたけれど、
本編の主人公ニック(サム・ワーシントン)はむしろ自ら「崖っぷち」に立ちに行くのでありますよ。


グランド・セントラルの裏手当たりにあるルーズベルト・ホテルの高層階、
窓を開けたかと思うと、すっと外へでて「棚(ledge)」に立つわけですが、
あの高さがあって、窓から誰でも外へ出られるというのは、

ましてホテルではあり得まいと思うところながら、まあその辺は措いといて。


ともかくそういう場所に自ら進んで行ってしまうとなれば、「自殺かな」と思うのでして、
物語では先んじて、どうやら冤罪で服役させられたニックが逃亡を図り…てなところが

語られてますから、いよいよ切羽詰ったかとの印象もあるわけで。


ですが、ここまでの仕立てではむしろ服役、脱走のシークエンスは伏せたままにしておいて、
やおら「よもや飛び降り自殺か?!」と思われる男が現れて、これにネゴシエイターが絡む中で
「どうやら自殺はあり得ない。では何故?」と感じるのを解きほぐしていく…てな方がいいようなと、
個人的には思いましたけれど、そういう流れにしたときに最後までどう語るかまで考えてませんので、
ま、思いつきということで。


とまれ、これは言ってもネタばれというほどではないと思いますが、
自ら敢えて「崖っぷち」に立つことには当然にして意図があるわけでして、
あたかも「自殺か?!」というニックを取り巻く状況とは別のところで別の動きがあるのですね。


それがまた「ミッション・インポッシブル」もかくやと思わせる難事なはずなのですが、
(細かくひやりとさせるところはあるにしても)何故か事の外簡単に運ばれてしまう。
この点にいささか都合よ過ぎの安直さを思うものの、

概して面白く出来上がっていたのではないですかね。


都合よ過ぎといえばもう一つ、ホテルの中であるときはボートとして、あるときはフロントとして
何気なく関わってくる人物がいるのですけれど、「どこかで見た顔だな…」と思い、
見ながらずっと思い出そうとしておりました。


何かの映画でテロリストをやっていた…というところまではすぐに思い出したですが、
最後の方で「カチッ!」と歯車がかみ合うようにして蘇ってきたのは、
そうそう「ダイハード2」で空港を占拠した頭目であったなと。


ダイ・ハード 」と「ダイ・ハード2」には続けて自分勝手なTVレポーターが登場してましたですが、
この「崖っぷちの男」でも「高所から飛び降りるかもしれん」という人物出現に

すぐさまTVレポーターが駆けつけ、何とも節操のない取材を繰り広げるあたり、

こうしたところの推測も「ダイ・ハード2」を思い出させるヒントになっていたかもしれませんですね。