八王子市夢美術館
で「加山又造 アトリエの記憶」という展覧会をやっておるということで、
出かけてみたのでありました。
数年前に没後5年の回顧展があって実に見応え十分は展示でしたですが、
近いところでは今年の正月でしたか、日本橋三越での展覧会
で
琳派の系譜を受け継ぐてな位置づけの中に加山又造も紹介されていましたっけ。
鮮やかな色遣いはもとよりですが、黒を大きく使う巧みさに感じ入ることしきり。
そんな加山作品が見られるとなると、ついついそそられてしまうところでして。
ところが、ここでの展覧会はちと趣きを異にしておりまして、かつて画家と関係があり、
亡くなったあとにさまざまな遺贈作品を蔵することになった多摩美術大学の、
遺された版画などを手掛かりにした研究成果を公表するてな意味合いを持っているらしい。
以前、多摩美術大学美術館で3回に分けて開催された展示の
ダイジェストということのようでありました。
作品としては版画中心とあって「大画面に溢れる色彩」とはいきませんでしたけれど、
これはこれで楽しみようもあるというもの。
のっけに並べられた「鹿」と「狼」なる銅版画。
1955年ということで、加山にとっては版画お試し的なところもあろうかと思うものの、
その流れる線で描かれた姿はとても意匠デザイン的であるとともに前衛的なふうでもあろうかと。
これは「狼」の部分ですけれど、数頭の狼の頭の並びが何とも人工的な配置になっていますが、
おさまりがいいものですから、「人工的」であることを意識させないようなところがあります。
また、パッと見よりも実は描かれている頭数が多いのは「だまし絵」的でもありましょうか。
こうした銅版の線描から始まって、
やがて加山は版画でも絢爛たる色彩を手に入れていきますね。
そのためにでしょうか、メゾチント、アクアチント、ドライポイント、リトグラフ…
あるいはそれらの併せ技と多様な技法を用いて版画制作に取り組んだようで。
その中ではアクアチントによる「雪」(1983年)という作品が加山らしい世界かなと。
「雪」というタイトルながら、雪そのものというより図案化された世界になってますね。
淡い淡い情景を浮かび上がらせるのに、5版7色も使うんだぁと。
こちらは「雪」と同じ頃の「花」、アクアチントとメゾチントの併せ技だそうすが、
これも分かりやすくも見事に「加山又造ワールド」になっているのではないですかね。
と、版画作品が多く、続いて素描と来た展示にあって、
最後に登場するのが水墨画なのでありますよ。
日本画家・加山又造としては当然の挑戦なのでしょうけれど、
展示のうちで一番大きな作品として展覧会の掉尾を飾っていたのが
「倣北宋水墨山水雪景」という屏風。これが凄い作品なのですなあ。
前景の樹木がまるで3D画像のように浮き立って見える。
また遠景の山々のぼかしが効いて、遠大な世界を封じ込めているのでありますよ。
タイトルに「倣北宋水墨」とありますように、
中国は北宋時代の水墨山水画の模写であるわけですが、
何枚もの下絵を積み重ねて、構図や表現には加山の独自世界が縦横に展開しているという。
本展フライヤーの下半分に掲載されているのがこの「倣北宋水墨山水雪景」ですけれど、
水墨画ながら筆で描くのではなくして「マスキングとコンプレッサーによる墨の吹きつけ」によって
作り上げられたものだというのですね。これも驚きの要素というか。
いかにも加山又造な作品と出会うという点では思惑違いでしたですが、
極端にいえば「倣北宋水墨山水雪景」一点を見られただけでも
元は取れた気のする展覧会でありました。