先日は雪に埋もれた山あいの一軒宿 にいて、
それこそ温泉に浸かるか酒を飲むかくらいしかすることもなく…てなことを言ったですが、
もうひとつありましたですね。TVでありますよ。


日頃は決してTV放送をたくさん見ているわけでもありませんで、
もっぱらCS放送なんかから見つくろって録画しておいたものをぽつりぽつりと見る程度で
およそ地上波の民間放送を見るのはせいぜいニュースか天気予報かくらい。

ではありますが、ごくごく一般的にはやはりTVというのは見られておるのだなという思いを改めて。


かの温泉宿に出掛けた一行5人は大学時代の友人なわけですが、当時からして
必ずしも趣味嗜好は一様であるはずもなく、それはそれででありますけれど、
ふっとTVを見るということ、そしてTVで見ようとする番組にも個性が出ているなと思いましたし、
その個性というのは学生のときの印象をおよそ変わらぬままに歳を重ねているなとも。


ひとりは到着後、午後のひとときを福祉大相撲で、ひとりはゴールデンタイムをバラエティーで、
またひとりは夜9時から連続ドラマを見逃せないと、それぞれ楽しそうに見ていた…

という様子を眺めつつ、そんなふうに思ったのでありますよ。


と翻って、個人的な趣味嗜好はどうかてなことになりますと、
学生時代から変わり映えがしないというよりはむやみと興味の対象が広がってしまっているような。


温泉宿で酒盛りしながら見るものでもないので、ちょうどその晩の放送分の「美の巨人たち」は
録画予約してたわけですが、学生の頃には海外にまで美術館を見に行くようになるとは
ゆめゆめ考えていなかったのが、こうした番組も好んで見るようになったのですから。


そんなふうに変わったと言えば変わったのだろうと思うところながら、
こちらから見て友人たちが「変わらねえな」と思うのと同様に
どうやら友人たちがこちらを見ると「相変わらずだね」とはなるようで、
このへんは「はて?」とも思ったり…。


と、前置きが実に長いのはままあることですけれど、
ここでのお話は録画しておいたTV番組「美の巨人たち」を見たということでありまして。

この番組もかつては毎週のように見ていたものの、最近はたまに見るくらいなものになってますが、
取り上げられる題材がアントワープ中央駅だということで、そんな作品もあるのだなと思うと、
これが本物の駅舎そのものをいわば美術品のように扱っていたのでありますね。


何とまあ「世界の駅」シリーズというのを4回連続でやるようで、その初回だったのですなあ。

確かに開業100周年ということもあって、東京駅のあれこれを見たりしているところはあり、
そうした延長線上で考えれば、こうした企画があってもおかしくないわけです。


そして、2007年夏に訪ねたアントワープでは、
ブリュッセルから列車で移動した後にたどりついたその中央駅に「おお!」と思ったものですし。
その印象のほどはかつてのブログにこのように書いていたりしたという。

ブリュッセル中央駅は地下に隠れていて、次々に違う方面行きの列車がトンネルを走り抜けていくという、まるで名鉄の新名古屋駅のような駅だったのですが、アントワープ中央駅は、見てください!立派なドーム型の天蓋に覆われた堂々たる建物。これでこそ、ヨーロッパの駅ですよね。

「見てください!」と言ってますから、その時の写真をここに再掲しますですが、
いかがでありましょうや。はっきり言ってこれだけではよく分かりませんですよね…。


アントワープ中央駅 2007年夏


実のところ、2007年夏のアントワープ中央駅は大改修のさなかにあったのでして、
ヨーロッパのターミナル駅に多く見られる頭端式ホームがこの装飾壁の手前側、
大きなドームの下に並んでいる…ところがざっくり地下へ掘り込んで、地下にホームを作り
一部が稼働しているという状況。


併せて、この装飾壁の向こう側になる駅舎の建物も改装中でシートで囲われた細い通路が
迷路のようになっていて、「おお!」と思うにしてももっぱら頭上を見上げるしかなかったわけです。


で、番組を見ていてようやくこの工事が「なるほど、そういうことだったのか」と
得心することになったのですね。6年半越しの「なるほど」です。


アントワープは(ヨーロッパとしては)大都市ですから、鉄道の行き来も相当にあり、
大きな駅舎が必要であったわけですが、設計にあたっては

ベルギーの国家威信を示す立派なものにという考えと同時に
街並みを保全するには線路が街なかを突っ切るのではなく、

市街周辺部を迂回して入ってこられる頭端式ホームを
軸に考える必要があって、かような形になったのだとか。


ですが、やがてどんどん高速な列車が運行されるようになるにつけ、
スイッチバック式の頭端式ホームへの出入りがタイムロスになることから、
例えばパリ~ブリュッセル~アムステルダムと結ぶような急行列車は中央駅から少し離れて、
その先へと直線的に進んで行ける駅にだけ停車し、

中央駅に入ってくることがなくなったしまったのだといいます。


列車の本数が減れば、利用客も減少にアントワープ中央駅は寂れる一方。
これではいけん!と中央駅の地下を掘り下げて、
急行列車はそのまま市街地の地下をまっすぐに抜けて行けるようにしたというのが、
かの工事だったのでありますよ。


ヨーロッパに行って、あの大きな天蓋に抱かれた頭端式ホームの駅を通るたび、
これはこれで旅情みたいなものを感じたりするところでありますけれど、

現実はなかなかに厳しいものですね。


かつて頭端式であった上野駅もターミナルというよりどんどん途中駅化していっていて、
もししばらくすると開業する上野東京ラインができると、
これまで上野始発であった高崎線、宇都宮線、常磐線あたりが東海道線と直通するわけで、
上野の途中駅化には留めを指されるものにもなろうかと。


ということころで、気付いてみればアントワープ中央駅の美術的な側面には
ちいとも触れないうちに長々しくなってしまいました。


まあ、改修工事も終わって、アントワープ中央駅は
とある調査によると「世界で最も美しい駅」の第1位に輝くことになったようでもありますので、
天蓋を見上げるばかりでなく、その様を見て回りにまた出掛けてみることにしましょうかね。
駅の美しさのほどは、そのときに改めて…。