この間見た「English Vinglish 」(邦題では「マダム・イン・ニューヨーク」ですが)は
インド映画ながらドラマに徹した作りでありましたけれど、
どうしてもインド映画として思い浮かべるのは「踊るマハラジャ」タイプのものでもあろうかと。
たまたまそれっぽい映画が公開されてましたので、
興味本位に見に行ってみましたですよ。
「ダバング 大胆不敵」という映画であります。
ある意味、全く予想を裏切らないミュージカル・アクション・コメディーでありましたですねえ。
主人公は北インドのとある町の警察官…ですが、むやみやたらと腕っ節が強い。
さらには思いもよらず見事な柔軟性も発揮して、
追いかけていた銀行強盗団の攻撃をひらりひらりとかわしていき、
応援の警官隊が駆けつける間にも一人で片付けてしまうのでありますよ。
こうなると、圧倒的な正義の味方かとも思われるところですけれど、
どうも盗賊から上前もはねているようで、決してスカッとするばかりでない背景もある。
これを演じるサルマン・カーンという俳優さん、インドではものすごく有名な人のようですが、
どうもですね、「白い巨塔」の頃の田宮二郎に見えてしまって、もうそこから離れられない…。
それだけにどうしてもどちらかというと「ダーティー・ヒーロー」に思えてしまうわけです。
しかしまあ、歌って踊って(サルマンのアドリブとも言われる妙な動きをつい真似てしまいそう)、
派手な立ち回りがあって…というのを見ていて、この手のインド映画の元が香港映画にあるのでは
とも思ったり。
香港映画が広く知られるようになったのは(って、個人的に知りうる範囲ですが)、
ブルース・リーあたりがもっぱらカンフーという、それまで欧米映画では見ることのできなかった
動きで見せるアクション映画ではないかと思うのですけれど、
それをジャッキー・チェンが出てきて、アクション・コメディーになった。
そして、インドではその延長線上に今度は歌って踊るという要素を付け加えて、
映画という娯楽の王様にはどんな要素も入ってるんだとばかりに
ミュージカル・アクション・コメディーになった・・・というようなことでもあろうかと。
ですが、本作のプログラムを読んでみれば、「踊るマハラジャ」はタミル語の映画であって、
インド映画のメイン・ストリームではないのだそうですよ。
インドの地域格差と言う点では、南インドと北インドには差があって、
南インドでは「踊るマハラジャ」のような、誰にも楽しめる娯楽大作が作られた反面、
北インドではもそっと文化的なところを指向する階層に向けたヒンディー語のドラマなどが
作られていたそうな(「English Vinglish」あたりもそうなんでしょう)。
ですが、そうした作品は映画を娯楽として楽しみたい大衆を呼び集めることができない。
やっぱり万人向けの作品が必要だとなったようで、
この「ダバング」などははっきりとそうした姿勢で作られたものとのこと。
そう考えると、舞台が北インドなのも「なるほど」と思うところで、
「踊るマハラジャ」(ちと古いとはいえ)が田園風景がバックにあったのに、こちらは一応町らしい。
そんな違いもあるのですなぁ。
ところで、知らなかったですが、この手の映画の公開にあたっては「マサラ上映」なることが行われ、
映画に併せて、歌っても踊ってもOK、歓声をあげても手拍子しても何でもOKという状態で
上映されることなんだそうです。
先に、サルマン・カーンの妙な動きを真似てしまいそうになる…てなことを言いましたけれど、
周囲に気兼ねなく、その場で同じ動きをしたら、さぞ気分も良かろうと思わないではない。
ですが、この映画、最初の方のつかみの良さとお終いの大乱闘との間に挟まった部分には
いささか中弛みするところがあって、マサラ上映的には気が殺がれるところがちらほら無きにしもあらず。
その点を考えると、まあ、普通に見るんで良かったんだなと思うところですが、
とにかく夏向きの映画で、コーラをぐいっと飲んだときのような一時は「スカッとさわやか」だけれど、
後でまたのどが渇いてしょうがないといった、ひとときの爆発的お楽しみということができましょうかね。
あんまり余計なことをあれこれ考えずに見るというのが秘訣。
そうであれば、楽しめることを請け合いでありますよ。