三鷹市美術ギャラリーでマリー・ローランサン展 を見たあとに出向いた東京芸術劇場。
ですので、一昨日の演奏会の話になりますけれど、とりあえず…。
聴きましたのは読響のコンサートで、
ありそうながらそうはないモーツァルト 尽くしのプログラムでありました。
上のフライヤーでは判読しにくいかもですので、
一応プログラミングをメモっておきますと、こんな具合です。
- 歌劇「後宮からの誘拐」序曲(「後宮からの逃走」とも)
- ピアノ協奏曲第9番「ジュノム」
- ピアノ協奏曲第27番
- 交響曲第31番「パリ」
いずれも有名どころからちと外した変化球的プログラミングながら、
真ん中に置かれた2曲のピアノ協奏曲がメインなのでして、
何せソリストがあの!ヴァレリー・アファナシェフなのですから。
あの!とは言うものの、実のところアファナシェフの演奏をCDでもそうは聴いたことがないだけに
やたら曲者めいた評価の一端から、怖いもの見たさ的な期待でもって臨んだのでありますよ。
トルコの後宮が舞台なだけに、シンバル、トライアングル、太鼓と鳴り物を並べて
賑やかに「後宮からの誘拐」序曲が演奏されますと、「ああ、モーツァルトだあ!」と。
有態にいって、うっかりすると何を聴いても「おんなじかぁ?」と思わせられてしまうのが
モーツァルトの個性(?)でもありましょうし。
そんなところへもってきて、二曲目に先立ってアファナシェフがふらりとステージに登場する。
謎の薬の調合に失敗して、飛び散る液体を頭からかぶってしまったマッド・サイエンティストのような
風貌は印象どおり。ただ、意外に大柄なんだなぁと思いましたですね。
それが、もしも小さな子のピアノ・レッスンなら先生から散々のお小言を頂戴しそうなほど
椅子の背もたれにびったり背をつけて演奏するのも独特なふう。
ですが、もっと驚くのはそうした見た目とはうらはらに(?)指先から紡ぎだされる音色の
粒立ちが良く軽やかなこと!
おそらくですけれど、かなり指力(ゆびぢから)があるんだろうと思いますですね。
強奏はもとより、弱奏であっても力加減の余裕でひょいひょいと。
全く無理してるとか、力が入っているとか、そういうことが全くないわけです。
で、その指力に加えてということになりましょうけれど、とっても手首がしなやかなんですね。
いつまでも容貌云々を言っては申し訳ないですが、とにかく予想を裏切ることばかりといいますか。
(ただしなやかなのは、手首だけではなかったようで、体全体的に軟体系なのかも・・・)
とまれ、思いがけずもオーソドックスなモーツァルトだったんじゃあないですかね。
ただ、時折微妙な揺らぎがあって、これはもしかして(聴いている分にはともかくも)
合わせる指揮者とオケはかなり大変なのかも…という瞬間もちらほら。
もしかすると、曲者とはいえグレン・グールドよりは大人の態度を示したのか、
協奏曲ではおとなしくしておこうじゃあないかと思ったのかもですね。
アンコールのショパンになって、ここは好きなようにやらせてもらうけんねとばかり、
個性が全開していたように思われます。
結局のところ、この日いちばんに印象的だったのは、このショパンでしたですから。
オーラの広がりとは陳腐な言いようながら、一瞬にして会場内はアファナシェフに支配された感が
ありましたですよ。
よくも悪くもそのアファナシェフの毒気?を少し覚ましてお帰りくださいとの配慮からか、
最後にさらっと交響曲「パリ」が演奏されましたですが、
いやはや生演奏を聴いたからといって、毎度いつも感じられるような空気感がそこにはあったわけで、
演奏家の力量とはすごいもんだなあと思ったものでありました。