静岡県立美術館で企画展の「佐伯祐三とパリ 」を見ておりますときに、
このような解説に行き当たったのですね。

日本の平たい風景、木と編みでできた脆い家屋の表現に佐伯は苦労した様子で、後に日本のモチーフの貧しさには参ったと語っている。

予て油彩で描かれるところの日本の情景が

どうにもしっくりこないと個人的に感じていたものですから、

描き手の側でもやっぱりそんなふうに思っていたんだねと
我が意を得たりの気がしたものです。


東京では下落合(東京都新宿区)にアトリエを構えていた佐伯は
周辺の風景を描いたりしていますけれど、

上に引用したような思いがあったからでもありましょうか、
どうも今一つ精彩を欠いたというか、そんな仕上がりになっているようにも思われます。


これが風景として、

敢えて日本のもの、日本だから的なところに拘らない普遍的風景と言いますか、

そうした場面(例え日本の景色をもとにしたとしても)のつもりで描いたならば、
たぶん違った見方をするのかなとも思うところなのですね。


あるいはそうでないにしても、写実を目指したのでなくしてデフォルメしたふうなものは
さほど違和感を覚えるものではありませんですね。
(ただし、ストレートに日本の情景としては見ていない気がしますが)


そんなことを思いながら、館蔵コレクションの展示室を覗いてみますと、
昨年度新たに取得した作品を並べる新収蔵品展をやっておりましたんですが、
そこで目を留めましたのが黒田清輝の連作「富士之図」。


黒田清輝「富士之図」(部分)


極めて日本的と思えなくもない富士を油彩で描いている6点の連作ですけれど、
これが油彩?と疑いたくなるほどの薄塗りからは筆あとも定かでなく、
あたかも水彩画であるかのよう。


黒田清輝作品が毎度毎度こうした見た目であれば、それも画家の個性と言えるところながら、
全て「富士之図」と同じような仕立てかというと、そうではないような。


黒田清輝「湖畔」(切手趣味週間1967年)


黒田清輝作品で日本情緒を醸すものといえば「湖畔」が有名ですけれど、
これも色彩的にはいささか淡くセーブしているとはいえ、
それでも見ようによっては東南アジアの情景か?と思えなくもない。


それが富士山を描くとなれば「やっぱり日本」との意識とは離れがたいところですし、
それだけになおのこと淡彩で、ともすると日本画かと見紛う装いで描いたのかも…と、
想像するわけです。


…てなことを言ってきますと、西洋の手法たる油彩で日本の風土を描くのは
どだい無理なんだよね的なふうに受け止められるかもですが、そこまでのことではなく、
ただ違和感を拭えないとは。


たまたまですけれど、県立美術館をじっくり眺めたその日、
ホテルで見るともなしにNHKの土曜ドラマを見たのですね。


レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説を原作とした「ロング・グッドバイ」の1回目。

私立探偵、キャバレー、タバコ、バー、ギムレット、女、港、雨…と、
ハードボイルドの世界を現出する要素をてんこ盛りにしていますが、
舞台を日本に置いて日本人を登場人物にしてとなると、
どうにも「みょ~」なものになってしまっているのですよね。


これまた違和感を拭えないので2回目以降見るかは不明ですけれど、TVのことはさておき、
洋画に取り組んだ画家たちも、日本を描く自作が何とか「みょ~」なものにならないよう
苦労したんだろうなぁとは思いますですね。


…と思いがけずも静岡県立美術館の話だけで3回分にもなってしまいました。
ですので、ここらでひとつ駿府の歴史絡みのお話を持ってこようと思っているところでありますよ。