Movie Plusのプログラムで見かけて「そう言えば、昔見たっけなあ」と、
ラストシーンで走り去る列車を追いかけるフランク・シナトラの姿が思い浮かんだものですから、
何となぁく見てみた映画「脱走特急」でありました。


脱走特急 [DVD]/20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン



近頃の英語そのままカタカナ置き換えとは違って、

この頃の外国映画にはそれなりの邦題が独自に付けられていたものだな…と思いつつ、
この「脱走特急」も改めて原題を見てみれば「Von Ryan's express」というもの。


フランク・シナトラ演ずる主人公がライアン大佐であって、話を端折ってしまえば
1943年、第二次大戦でイタリアがまさに降伏かという時期に
捕虜となっていた連合軍兵士たちを列車でスイスへ逃がそうというストーリーですので、
「Ryan」と「express」は分かりやすいものの、「Von」の意味するところは?


この辺りを気にしながら見ていたわけですが、
「なるほど、そういうことか!」と思い当ったことに裏付けが得られようかと
検索してみたところ、思いもよらぬ記載を目にすることになってしまったのでありますよ。
例えばWikipediaにはこのように書かれていたのですね。

捕虜たちは、リーダーのアメリカ軍人”フォン”ライアン大佐(あまりに指揮が厳格なため「ドイツ人のようだ」として捕虜からこう呼ばれた)の指揮の下、逆に列車を乗っ取り、ドイツ軍人になりすまして列車ごと一路中立国のスイスを目指す。

肝心なのは「フォン・ライアン大佐」と呼ばれることになった背景です。

ここでは、あまりに指揮が厳格なためにドイツ人のようだと捕虜たちから呼ばれたことになってますが、

「フォン・ライアン」とはっきり呼んだのは英軍近衛連隊のフィンチャム少佐(トレヴァー・ハワード)だけ

ではなかったかと。


そして、そう呼ぶ理由もフィンチャムたちが収容所からの脱走用に掘っていた穴の場所を

収容所長(アドルフォ・チェリ、「007/サンダーボール作戦」の敵役)に教えてしまったりしたことに対して

「ドイツ軍の勲章をもらえる」とフィンチャムが揶揄したことに起因するのですね。


ただ、ライアンが何故そうした行動に出たかということですが、

脱走用の穴が収容所外まで掘りぬけたとして、大勢の捕虜が逃げおおせるために直面するリスクと

すでに連合軍はイタリア本土を侵攻中であり、ほどなく収容所も解放されるとの見通しとを比較して、

今は無理をするより待ちであると判断したからなんですね。


ですが、フィンチャムには(どうやら栄光の連隊らしい)近衛連隊はイタリアへ戦いに来たのであって、

待ちの姿勢など考えられん、何もしないのはむしろ利敵行為であると考えたことから、

「フォン・ライアン」と呼ぶことにもなるわけです。


ということで、ずいぶんと先の引用とはおもむきが異なる印象であったわけですが、

ここらへんのことから思いを巡らせるところはといえば、

英兵と米兵との葛藤、そして職業軍人であるかどうかによる判断の違いといったことでしょうか。


前者に関しては、たまたまライアンが収容所入りした際に

フィンチャムの上官であった大佐が亡くなったところであって、

ライアンは到着早々にして収容所内の捕虜としては最上級士官となるわけで、

いかな階級に厳格な世界としても、フィンチャムにすれば米軍の指揮下に入ることじたい面白くない。


加えて(後者の点になりますが)フィンチャムはたたき上げと思しき職業軍人である一方、

ライアンは大佐とはいえ飛行機乗りとして志願した(あるいは徴用を受けた)立場となれば、

民間人紙一重の指揮下では我慢ならん状態なわけですね。


そして、ライアンの考えるところは人的被害を極力抑えることであって、

例え敵対するイタリア側の収容所長であっても、護送列車を指揮する独軍将校であっても、

フィンチャムのように「後でたたるから、殺してしまえ」という発想は持ち合わせていないものですから、

両者の対立は募る一方ではなかろうかと。


フィンチャムの側にしてみれば、現に戦時下であり、戦うためにここにいるのに戦わない、

より多くの敵を倒そうとしないと全く理解できないところと想像できそうです。


では、いったいどちらの側に道理があるのか…と考えてしまいそうになりますが、

もともと戦時下であるという状況そのものに誤りがありましょうから、

考えても詮無いことなのだと気がつきました。


そうしたところに思い至ったとすれば、

いわゆる戦争アクション映画といったところにカテゴライズされるであろうこの映画も

反戦映画足りうるのかもしれんなぁと思ったりもしましたですよ。


ところで、先のWikipediaの引用部分、

あのままでいいのでしょうかね…。