エッジウェア卿殺人事件 」の話のついでに、予て気になってきたことを。


外国の言葉、取り分け地名や人名を日本語(カタカナ)に置き換えることは
決して簡単ではないのでして、スカンジナビア紀行 なんかの中でも
デンマーク語をカタカナ表記することも難しさを感じているわけですが、
今ここでまず注目するのは、かの名探偵は「ポアロ」なのか、「ポワロ」なのか…
ということです。


おそらくどこの公立図書館でも常備されているシリーズ作品と思われますが、
その2大勢力たる早川書房版では「ポアロ」、東京創元社(創元推理文庫)版では「ポワロ」で、
いくつかの作品のみ収録されている新潮文庫では「ポワロ」てな具合のようです。


で、元の綴りは「Hercule Poirot」で、彼の母語がフランス語であることからすれば
(ベルギーでもフランドルの方はフランス語圏ではありませんからワロン地方の出なのでしょう)
「Poirot」をフランス語でどう読むのかが肝心なところとなりますね。


個人的にフランス語はさっぱり?なものの、Wikipediaにある
「フランス語でoiは「ォワ」という感じに発音するため、後者のほうが原音に近い」
という記載には、印象として頷けるものと感じてはいるのですね。


これはフランス語の「un, deux, trois」を一般に「アン、ドゥ、トロワ」と言い、
「トロア」とはおよそ聞いたことがないことからも感じられることです。


となれば、やっぱりエルキュール・ポワロと表記されるのが一般的かと言えば、
あれこれ検索しても「ポアロ」、「ポワロ」は著しく混在していて
(実際、個人的にもこれまで揺れながら使っていたような…)
強いて言えば「ポアロ」が優勢でもあろうかと。


何となればですが、これもWikipediaから引用してみれば、こんな記載がありました。

以前は「ポワロ」と表記することが多かったが、「ポアロ」表記をしている早川書房が翻訳独占契約を結んだため、「ポアロ」という表記が世間に広まった。

そうであったか!と思うところですが、一方でその後に人気を呼んだTVシリーズでは
「名探偵ポワロ」がタイトルとなっていて、揺り戻しが起きているのかも。
ネット検索での混在状況はこうしたことの故でもあろうかと思うところです。


が、こうしたあれこれを踏まえて、
個人的にはこの後は「エルキュール・ポワロ」で行こうと思っとりますです、はい。


ということで、ポアロかポワロかに関してはそれで良いとして、
先に「今ここでまず注目するのは」と、「まず」と断りましたのは

もう一つ気になることがあるからなのですね。


そもそもの話になりますが、

エルキュール・ポワロの生みの親は「クリスティ」なのか「クリスティー」なのか。


この点もざっくり言ってしまいますと、
早川書房版では「クリスティー」、東京創元社版では「クリスティ」と

またまた2大勢力が異なる表記ですが、
どうやら一般的表記(例えばWikipediaの見出し)としては(ポアロ、ポワロのケースとは逆に)
創元社側、つまり「クリスティ」に軍配が上がるようです。


で、ここでまた先ほどと同じように元の綴りに当たってみますと「Agatha Christie」ですので、
最後の「tie」は長く伸ばす音のように思えます。


というより、該当部分を誰もが長く伸ばすものとの共通認識がありながらも、
表記として「クリスティ」を用いるか、「クリスティー」を用いるかで

判断が分かれているようなのですね。


本来的にカタカナで長音を表記するには「ー」(俗に言う伸ばし棒)を使うものと思いますが、
例えば音楽の旋律を言う「melody」はかつては「メロディー」と

伸ばし棒が付いていたように思うものの近頃では「メロディ」という表記が多くなっているのでは。


一方で、「ハーブティー」と言うときに「ハーブティ」とは書かないでしょうし、見たこともない。
「ディー」でも「ティー」でも「イー」と音を伸ばす点で変わりがないはずなのに、
「melody」の方は「メロディー」と書いても「メロディ」と書いても同じ音価で認識されるのは

不思議ですよね。


仮に「ディ」や「ティ」だけを取り出した場合、
これらが「ディー」や「ティー」と同じ音価と捉えることはないように思うのですが。


これはもしかするとですが、
日本工業規格(JIS Z8301)で示されている表記の統一の観点が関係しているのでしょうか。


これは、3音節以上の(長め)の英単語では語尾の伸ばし棒を省略して記載するというもので、
(他にもいろいろ決め事があるようですが)
「エスカレーター」を「エスカレータ」と書くように用いられますですね。


「コンピュータ」が出回って以降は「アドミニストレータ」とか「アクセサリ」とか「カテゴリ」とか
特にカタカナ語が増える中で、使用範囲が広がったのかもしれんと。


ただ冷静に考えてみると、ごくごく普通に外国語のカタカナ表記をするときに
「ハーブティー」を「ハーブティ」とは言わないように本来の音価に相応しければ
伸ばし棒を付けるのが自然ではないかと思いますですね。


実際コンピュータ業界でも揺らぎが出ているようでして、

ここではそのことに深入りしませんけれど、
こうしたあれこれを考えた結果、個人的にはアガサ・クリスティーを採用することにします。


アガサ・クリスティーの生み出した名探偵エルキュール・ポワロ。
差し当たり整理がついたように思います。めでたし、めでたし。