例によってですが、「スカンジナビア紀行 」がある程度長くなるのではないか…と思うほどに
違う話題も提供しておかけば、せっかくおこしいただいた方も飽きてしまわれるだろうということで。
写真展と言いますと、新宿に出たついでに立ち寄るコニカミノルタプラザ やニコンサロンでもって
時折出会いがしら的にがつん!と一発くらうことがあるものの、
「この写真展が見たいぞ」という思いに駆られて出掛けるのは、絵画に比べるとかなり少ないのですね。
こうした個人的趣味嗜好でありながらも、
フライヤーを見て「これは?!」と出かけずにはいられなくなったのがアンドレアス・グルスキー展。
六本木の国立新美術館で開催中ですけれど、そのフライヤーというのがこれですね。
いったいこれは何ぞ?
フライヤーで惹かれたとはいえ、Web上の画像で見かけただけで本物のフライヤーを手にしたのは
美術館にたどり着いてからでありまして、ことほどかほどに動かされるパワーを感じたわけです。
でもって、本当の展示作品を見たですが、
縦2.28m×横3.67mの大きさを目の当たりにしますとフライヤーのインパクトを遥かに凌駕しておる。
すげえなぁ…と。
で、結局のところ被写体は何ぞと思えば、タイトルに「カミオカンデ」とある。
あのスーパーカミオカンデの内部であったのですなぁ。
ニュートリノの研究施設となれば科学の最先端でありましょうけれど、
その施設をこうして提示されたときに思ったのですよね、「こりゃあ、曼荼羅だ!」と。
これは先日まで根津美術館でやっていた「曼荼羅」展のフライヤー(部分)ですが、
同展のキャッチコピーに「宇宙は神仏で充満する!」とありますように
古く仏教で考えられて絵図に残された「宇宙」像が曼荼羅。
最先端科学の実験施設がこれと似てしまう(個人的には少なくともそう感じた)のは
何と不思議なことなのだろうと思うところでありますよ。
で、この写真を撮ったのがアンドレアス・グルスキーというアーティストで、
作品の鍵はどうやら「反復」ということになろうかと。
時に規則的に、そして時に不規則に。
いずれの作品にも「反復」が関わっているやに思われました。
どうやら有名作らしいのですが、「99セント」というタイトルの作品があります。
日本で言えば100円ショップの大きなお店の、所狭しと並べられた品揃えを写したもの。
ただ、それだけといえばそれだけなんですが、これまた2m×3mを超える大きさで展示されると
人間の胃袋とか購買欲の底知れなさを覗き見てしまった気がしますですねえ。
それがグロくなくって、むしろポップな感じで提示される違和感といいますか、
思わずクラッと来ますですねえ。
そして、もうひとつ「バンコク」というタイトルのシリーズ。
中でも「バンコクⅤ」は「これも写真なの?」と思うわけですね。
パッと見では作為を持って描き出した抽象絵画作品としか思われない。
バンコクを流れるチャオプラヤ川の川面を撮ったものなんですが、
(昔はメナム川と呼ばれてましたが、タイ語で「メナム」は「川」の意らしい)
コーヒー牛乳色の流れにゴミがいっぱい浮いている川なのですよね。
確かによおく見ると、
所々にゴミやホテイアオイのような草が漂っているところからこれが川であると知れるものの、
(シリーズの別作品に「マスカットキャンディ」とカタカナで書かれた袋が浮いており情け無くなりました)
ということで、改めて「99セント」の解説に戻ってみますと、こんなふうに紹介されていたのですね。
現実に切り撮った各ショットを元にデジタル加工を施して作り上げられた消費社会のイメージ…云々。
おお、やっぱり。加工していたのですな。
ともすると、写真というものが「真を写す」と捉えて(素人故でもありましょうが)
加工するなんてのは!と思ったりしてしまうところですけれど、
見た目を整えるようなこととは全く違って、ここでは写真は完成作のための素材なのですよね。
となると、グルスキーという人は、果たして写真家なのかどうか??
いやあ、面白くまた刺激的でもある展覧会でしたなぁ。
そして、行って見たらば同じく国立新美術館では「アメリカン・ポップ・アート」展も始まっており、
グルスキーの「99セント」に見る商品の並びはウォーホルのスープ缶に通ずるものであるか・・・
てなことを思って、こちらも見なくてはと思ったのでありますよ。