大倉集古館と泉屋博古館とを見て回った折 に、

実はそのときのお目当てはホテル・オークラであると言いましたけれど、

ホテル・オークラでは毎年夏の時期のチャリティーイベントとして

「秘蔵の名品 アートコレクション展」というのを開催しているのですね。


今年のお題は「モネ ユトリロ 佐伯と日仏絵画の巨匠たち」というもの。

普段はどこぞのコレクターが隠し持っている(というと語弊がありそうですが)作品を

チャリティーの名のもとに借り受けて一挙展示してくれるという展覧会ですので、

やってることに気付いて以来、毎年気に掛けているのですね。


「モネ ユトリロ 佐伯と日仏絵画の巨匠たち」展@ホテル・オークラ


フライヤーに配された佐伯祐三、ユトリロ、モネ、モディリアーニを見ただけでも心躍るところでけれど、

これらはまだあちこちの美術館の展示で見ることができるもの。

個人コレクション、企業コレクションとなると、おいそれと画像にもできないのかもですね。


そうしたものをいくつか心覚えとして記しておくこととして、

まずはルノワールの「カーニュ農園」のことを。

これはもうルノワールであることは間違いないわけですが、

「らしさ全開」という以上に「らしさ爆発」といったところ。


晩年に住まった南仏カーニュ・シュル・メールの農園風景を描いたものとタイトルから知れるものの、

そこにある風景はもはや「腐海 」ではないか?!と思える凄まじさ。

凄いもの、みたなぁと思いましたですねえ。


ユトリロの「モンマルトルのミュレール通り」も、

ユトリロにしては大きな眺望で「へえ~」と思う作品ではないかと。

遠くサクレクールを見上げる視線を沿わせるように通りがやがて石段につながって上り詰めていく。

玉石混淆の感のあるユトリロですけれど、「これは!」でありますよ。


そして、キスリングの「水玉の服の少女」には絵の前で陶然としてしまいましたですよ。

例によってキスリングらしいまるきり無表情な少女の肖像なのですけれど、

人形に恋してしまうピグマリオンはこんな心境でもあったろうかと。


あたかも魚の目のようなにごりを帯びた目もさりながら、

髪の生え際まで見れば見るほど人間らしくない。

たまたま隣にあったヴァン・ドンゲン描く女性像の、作りこまれた表情との対比は余りにも明らか。

ですが、この無表情が生み出す蠱惑はいったい何でありましょうかねえ。


・・・とまあ、キリが無いところでありますけれど、

最後に触れておきたいのはやっぱりヴラマンクになります。

里見勝蔵も佐伯祐三も荻須高徳も、それぞれにそれぞれのやり方でヴラマンクを乗り越えて

個性を見出していったことが、相互の作品を比べてみるとよぉく分かりますですね。


そして、彼らがヴラマンクを乗りこえたといいましたが、

当のヴラマンク自身の作品が放射するオーラもまた、

「雪の村」といった作品から感じ取るごとができました。絵の持つ力はすごいものです。

しかも、贅沢なことに空いているのですから、じっくり堪能できる展覧会でありましたですよ。