先に読んだ「ノルゲ 」でオスロの空気が伝わってきたと言いましたけれど、

この際ですからもそっとノルウェーの雰囲気に浸って・・・と思ったものですから

ノルウェーの民話集を読んでみたのですね。


岩波少年文庫の一冊でタイトルには「太陽の東 月の西」とありますが、

本来なら素直にノルウェー民話集と言ってもよいところをその中の一編からタイトルをつけた。

印象的なタイトルだからということになりましょうか。


ちなみに大ベストセラーになった「ノルウェイの森」(読んでませんが)を書いた村上春樹さんには

「国境の南、太陽の西」という作品もありますですね。

ノルウェーつながりで、この民話のタイトルを借用したのかと思ってしまいましたですよ。


ところで、」19世紀の半ば以降に

ペテル・クリスティン・アスビョルンセンとヨルゲン・モーという二人が集めなければ

日の目を見ることが無かったのでは…とも言われるノルウェー民話。

この二人は、いわばノルウェーのグリム兄弟ともいうべき存在なのでありましょう。


太陽の東 月の西




民話といえば、グリム童話に関しても「本当は怖い・・・」と言われたりもするように、

必ずしも子供に聞かせることが本来ではない伝承でありますから、

「おいおい、そんなことしちゃう?」ということもまま登場しますですね。


読んだのが岩波少年文庫なだけに手心は加わっているものと想像しますが、

それにしても…というものもないではない。

グリム童話のように多くの人の目に触れることがない分、

民話としての素朴さ(残酷さも含めて)が残されているような気がしないでもないような。


ただ、悪者として登場するのがもっぱらトロルというのが、実に「らしい」ところですね。

ご存知のようにトロルは北欧独自の悪鬼のような存在。


日本でも有名なムーミンも実は「ムーミントロール」ということで、この仲間なのでしょう。

フィンランドは北欧圏ではあっても独特の文化を持っているものの、

作者トーヴェ・ヤンソンはスウェーデン系のフィンランド人ですから

やっぱり北欧文化に関わっていると思っていいのでしょう。


ところでこのトロルですが、

グリム童話の魔法使いのおばあさん的な役回りで登場することもあるかと思えば、

頭を3つも6つも持った異形の怪物としても登場するという、

実にバリエーション豊かな存在のようなのですね。


ですが、ちょっとばかり驚いたのは本書収録の「ちびのふとっちょ」という一編で、

このトロルが教会に行くという場面が出てくるのでありますよ。


「え?」と思いませんでしょうか。

この辺り、北欧でのキリスト教の受容と絡めて探究したくなるようなところではないかと。


この他にも北欧らしいところといえば、標題作の「太陽の東 月の西」という作品では

魔法使いに変身させられてしまった王子さまが登場するのですけれど、

これがなんとまあ白熊なのですね。いかにもではありませんか。


とまれ、先に「素朴さを残している」てなこと言いましたけれど、

そうしたことはお話の構成なんかにも現れているような気がします。

読んでいて、とてもとても「3」という数字が強く印象に残るのですね。


この辺りのことに関係することを、

去年の秋に放送されていたNHKのカルチャーラジオ「グリム童話の深層をよむ」で聴いた気がして、

テキストから探し出してみると、こんな一節がありました。

メルヘンでは同種のことがしばしば連続して-多くは三回連続して-行われます。…反復されるたびに、課題は困難になるのです。しかしこの課題も、灰かぶりは小鳥たちの援助を得て容易になしとげてしまいます。

これは「灰かぶり姫」(一般的に知られた言い方では「シンデレラ」)を解説した一部分ですけれど、

継母から灰かぶり(シンデレラ)への困難な仕事の言いつけは3回繰り返され、

そのたびごとに困難さはエスカレートすることを言っているのですね。


で、民話はそもそもが口承されるものですから、

話して聴かせる上ので演出もまた伝承されると思っていいのだと思いますが、

たった一度の困難を克服しても「なぁんだ」で終わってしまう、

そうしたクリアする様子を二度目もまだ「もしかして失敗するのか…」と見守ることができますが、

さすがに三度目となるとぎりぎりではないかと。


いかに困難を克服するバリエーションがたくさん浮かんだとしても、

4度目、5度目と繰り返しては「どうせ大丈夫なんでしょ」になってしまいますから。

実際、本書には何度も課題克服が課せられる話が出てきますが、

課題を克服するやり方がいかに巧みであっても、興味が持続しなくなってくるわけです。


こうして口承文芸があれこれの試行錯誤の中で見出したのが

「三度の繰り返し」だったのではなかろうかと思うわけでありますよ。


思うに日本語で言うところの「三度目の正直」なども

やはり三度の繰り返しとの関わりがあるように思われなくもない。

英語にも「Third time lucky」といった言い方があるようですから、

万国共通の捉え方なのかもしれないですね。


ところで、この「3」にこだわってみると、

登場人物が3人兄弟であることもまま見かけられたような。


そして、だいたいからして一番上で駄目、二番目でも駄目、

もっとも頼りなさそうな三番目が結果的には成功を収めるというパターンが多いですけれど、

これはもしかすると「末子相続」だったのではないかと思ってしまうところでして、

試しに検索してみますと少数ながら関連するような内容が見られました。

「バイキング」は末子相続であったというような。


この辺のことも本格的に極めるにはルーン文字を読み解いて…みたいな世界になるのかもですが、

表紙裏には「小学4・5年以上」という記載のある岩波少年文庫。

少年たちとは違う目線だったかもですが、例によってあれこれ楽しませてもらったのでありました。